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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑧(追加)

⑧ 実習当日、そしてあちらこちらで大乱闘


「よし、ふたつめ」
捕縛した4年の懐から札を引き抜いて、己の装束の下に隠した。5年との圧倒的な実力差でのやりあいに気圧されて唖然としている下級生を振り返り、久々知は苦笑いした。
「課題は懐なんてわかりやすいところに忍ばせておくものじゃないぞ」
「すみません」
暢気に批評など下していたら、その傍らを寸銅がじゃらりと走り抜け、久々知はひらりと身を翻してそれを避けると、背後を振り返った。足元に武器が降って来て、ひい、と4年生の怯えた声が上がる。
寸銅を投げたのは三郎であるらしかった。町にかかる橋のたもとに植えられた大樹にしゃがみ込み、気付いた久々知に軽く片手を挙げる。
「よお!もうかりまっかー?」
「ぼちぼちだな。あと一個。お前は?」
「俺もッス。なかなか見つかんねーから終わんねー」
「何がだ?」
首を傾げる久々知に苦笑いする。「にゃんこさんだよ」と告げれば、友の顔は曇った。眉を顰める。
「まさか、」
「そのまさかだよ、今日になって一度も見かけない。おかげで蜂にも出会わず俺は実習を終われない」
「斉藤タカ丸は不参加か?」
久々知は尻餅をついたままの4年に問う。怯えたような表情の少年は、ぶんぶんと首を横に振って、「いえ、欠席者はいないはずです」と確信的に頷いたので、久々知の表情はますます険しくなった。
「変装が飛躍的に上達した」
三郎がポツリと呟く。久々知は冗談めいたその言葉ににこりとも笑わず、焦りすら見える表情で、「まさか」と首を振った。「まさか、危険な目、なんていうのはあっていないと思うんだが…」それでも眉は顰めたままだ。三郎は瞳を細める。不穏な空気を纏い始めた友の後姿を見詰め、それから親友雷蔵が今朝呟いた言葉を思い出す。
(三郎、タカ丸を餌にするのはいいがくれぐれも怪我はさせぬように。彼は4年といっても1年以下の素人だ)
心配性な雷蔵に、三郎はからから笑いながら頷いたのだ。わかってるよ、大丈夫だ。
(それから…これは考えすぎかもしれないけれども、彼は本当は学園の外に出ているのは危ないように思うんだ。僕も気をつけているつもりだけれども、三郎も有事のときには彼の守護を頼むよ)
(ふむ)
そのときは軽く聞き流していたが、今になって思えば、もう少し聞きとがめておかねばならぬ言葉だったかもしれない。
「タカ丸は、あれかね、有事にあいそうな可能性でもあるかね」
突然の三郎の言に、久々知は、こちらもある可能性にようやく思い至って怯えていたのだろう。ぎり、と親指の爪を噛み、苦々しい顔で呟いた。
「以前あったな、タカ丸が狙われる騒動が」
「そうか、あれはまだ解決がしておらんかったのだな」
「くそ、もっと早くに気付けばよかったッ!」
じゃりり、と足袋が砂を踏みしめ、久々知は慌てて身を翻した。駆け出そうとするのを、三郎が木の梢より飛来して、しっかと襟首を掴んで引き止める。
「ぐえ!」
「焦りは禁物」
「離せ三郎!」
「穴に落ちたいならいいさ」
久々知を片手でしっかと抱きとめ、その背後から脚を延ばし、トン、と地面を蹴った。雑花が一輪生えているだけの何の変哲もない場所だ。”冬なのに、雑貨が一輪生えているだけの”。軽い衝撃でどしゃりと土は落ち、あり地獄のような様態のそこに、きらりと手裏剣の刃が見えている。
「4年でいたな、こういうの得意なやつが」
三郎が口笛を吹く。
「綾部・・・喜八郎、だったか。むちゃくちゃだな。ここは市井だぞ、一般人を巻き込むつもりか!」
苛立ちを露にする久々知の前に、スタン、と軽い音がしてふたりの少年が舞い降りた。どうやら近くの商家の屋根にでも潜んでいたものらしい。くせのない黒髪が別の生き物のようにうねり、背中に滑り落ちた。
「4年、平滝夜叉丸。お相手願います」
その傍らで赤毛の若武者めいた爽やかな印象の少年も、勝気な瞳で上級生を見上げ、にやりと微笑う。
「同じく、田村三木ヱ門」
「俺は忙しい、断る」
馬鹿らしい、下級生のお遊びに付き合っていられるかと久々知の反応はつれない。もとより彼は、こうした功名心ばかりが先走った行動が好きではない。忍者が名乗りを上げるな。密やかに、目立たぬように最小限の動きをすればいいだけのこと。「餓鬼が、」と苛立ち紛れに吐き捨てれば、三郎は、ちょんちょんと久々知の襟首を突き、己の背後を指差す。
「くーちゃん、行ってよし」
「三郎、阿呆に構うな!」
「俺はこの阿呆に出くわす為にずっと待ってたのよ、戦らせてちょーだい」
「ふん、物好きめ。怪我するなよ」
「誰に言ってんのよ、もーう」
軽言めいたやりとりの後、久々知は走り、三郎はその盾となりながらふたりの少年に向き合った。瞳に酷薄な光が宿り、獲物を狩る前の獰猛な狼に似た表情が、舌なめずりする。
「さあ、やろうか?」

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