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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑥

ぬおー!誤字脱字すみません!!昔から誤字脱字の王なので(言い訳)、あの、時間が出来たら直させていただきます・・・。ご指摘ありがとうございました(平伏)。


⑥ 命を狙われること、あるいは騒がしいのは6年生


立花仙蔵によれば、話は6日前に遡るのだという。
「ちょうどその頃から、学園内が騒がしくないかね」
問われても、タカ丸からしてみればこの学園はいつも何かにつけ騒動が起こっているから、騒がしくないことがない。異物感があるのだ、と狐の妖しさにも似た不思議な雰囲気のある上級生は告げる。タカ丸は絹の束のような髪を丁寧に梳りながら、「さあ、僕にはよくわかりません」と返す。仙蔵は流し目をしてタカ丸を見やると、
「敬語はいいのだと前に言わなかったかな」
と流れる小川のせせらぎに似た上品な調子で窘める。あう、とタカ丸は気圧されて歪な笑みを浮かべた。
「こんなときの敬語は無粋だ」
「でも、先輩、ですし…」
「生きてきた年数では私と同じだ。それに、忍術で劣っていたとしても、髪結いとしての貴方は比類なき天才です。もっと自覚を持って、堂々と振舞っていい」
「はあ、」
「自信は誇りに繋がります。誇りは人を美しく見せる。私は貴方にもっと堂々とした王者の風格を持ってもらいたい。そうしてそれは貴方をより美しくする」
「えーと、」
時々仙蔵の言っていることはよくわからない。ただ、この人が忍術の腕前でなくその独特の雰囲気でもって忍術学園の中でも崇められている位置にいるのはわかる。彼が長を務める作法委員会は学園の綺麗どころばかりで組織され、一説には委員長の美的センスと上手く合った生徒でないと選ばれることはないと聞く。そうしてタカ丸は仙蔵に月に一度の髪結いを熱心に頼まれ、そのたびに作法委員会に勧誘されているのだった。
「曲者でもいるってことですかね」
タカ丸が話を変えると、仙蔵はあっさりと「うむ」肯定したので、驚いて櫛を落とした。
「く、くく、曲者!大変じゃないですか怖いじゃないですか」
「そうだな、文次郎がさり気なく調査を入れているようだがなかなか正体は掴めぬようで」
「心当たりはないんですか」
「そりゃ、叩けばありすぎるほど出て来るだろう。なんせここは忍術学園なのだから」
落ち着いたものである。これが6年間みっちり忍術を習ってきた者の自信から来る様子なのだろうか。実に堂々としている。感心するタカ丸の背後で、スパーン!と気持ちのいいような音がして障子があいた。
「仙ちゃーん!邪魔をするぞーい!」
「小平太、お前障子くらい静かに開けられないか」
仙蔵が整った眉を潜めて振り返った。体育委員長を務める七松小平太は尽きぬ体力が自慢で、今も真冬というのに上装束を脱ぎ捨てて黒いアンダーのままで満面の笑みを浮かべている。
「おおう、髪結いくんも来てたのかあ!ちょうど好いや」
大口を開けて明るく笑う。仙蔵の傍らに用意された茶碗をむんずと掴むと冷めたそれを許可も無しに飲み干し、干菓子を口にポイポイと放り込む。以前別な六年生がそれをやったら茶をぶっ掛けて怒りを露にしたはずなので、「仕方のないやつ」と眉を潜めるくらいで許されている小平太は、気に入られているのか。
「それで、奴さんの尾は掴めたのか」
「そうさな、その話はいさちゃんが戻ってきてからだ」
「ほう、伊作も来るか。茶をふやさねば」
「俺が入れてこようか?」
「ありがたいが、小平太、お前の茶は不味い」
「言われてしまった」
小平太はやはり明るく笑う、立ち上がって部屋を出て行ってしまう仙蔵の背中を見送って、干菓子を二、三個その大きな掌に掴むと、真っ直ぐタカ丸と向き合った。
「やあ、怖い思いはしていないかい」
「何ですって?」
「伊作は告げるのはよそうといったのだがね、俺はこういうのは知っておいたほうがいいと思って。今回に限ったことではないし、もし最悪の事態が起こってしまったとして、俺はいつも考えているんだが、正体もわからぬ敵に殺されるというのはなんだか嫌じゃないかね」
「何の話です」
「うん、つまり、――」
小平太が告げようというところで、しゅり、と風が切れるような音が耳もとでし、驚いたタカ丸が息を呑む頃には、小平太が庇うように立ちふさがって干菓子の置かれていた盆を庭に向けて掲げていた。トス、トス、と何かを叩くような軽い音が鳴る。
「やあ、驚いたな、いきなり来よった」
盆を下ろせば、そこには八方手裏剣がさっくりと三つ、刺さっている。真っ青になるタカ丸を振り返って、小平太はにやりと片頬を釣り上げる。
「つまり、君は命を狙われてるってわけ」
「おおーい、手裏剣の音がしたけど無事かーい!」と廊下からどたどた足音。小平太が明るく笑って、「あは、ようやくいさっちゃんがおいでなすった」というのも頭に入らず、ただただタカ丸は予想もつかぬ展開に目を白黒させるばかり。そういえば祖父の件が元で自分は命を狙われても可笑しくない立場にあるのだった。すっかり忘れていた。
「いさっちゃん、奴さん右斜め上にいるぞ、気をつけな」
「小平太怪我人は」
「まさか俺がついていながら怪我などと」
「小平太、なにやら騒がしいようだが」
そのとき折りしも茶を汲んできた仙蔵が現われて、にわかに部屋は騒然とした。再び風を切る音。「おっと、危ない!」小平太がタカ丸の足をずるりと引っ張って、畳の上に倒す。そのまま頭を押し付けられむぎゅうと変な声を出して苦しんだところを、伊作がその脇腹に転んで横転した。その途端に仙蔵の持っていた茶をひっくり返し、「あれまあ」と暢気な声をあげた仙蔵は、ひょこりとその場にしゃがみ込む。
スコーン!と気持ちのいい音がしてこは一体何事かと、小平太は笑顔で、仙蔵は流し目で、伊作は涙目でタカ丸は潰されながらと四者四様に顔を上げれば、そこには飛んできた苦無を仙蔵の運んできた盆で防ぎ、ひっくり返った茶を頭から被りながら、渋い表情をする潮江文次郎の姿があった。
「悔しいくらい全員無事のようだな、嬉しい限りだ」

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