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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑤

⑤ 下級生に窘められる上級生、あるいは非情な世界


「そんなん、」
兵太夫は成長したらさぞ綺麗に映えるだろうなあと思われる容貌を生意気に歪ませて、言った。
「もうだめだよ、タカ丸さん。悪いこと言わないから今からでも変えたほうがいいって」


今日の昼食は食堂のおばちゃんが作った握り飯だ。中身は鮭と昆布と梅干。うまい。青空の下で食べるからなおうまい。満面の笑みで頬張ったら通りかかった一年は組教科担当の土井先生に見られて、苦笑いされた。
「でっかい一年生だなあ」
「ふみまへん」
もぎゅもぎゅと握り飯を食みながら応えたら、「ああ、ああ、飲み込んでから返事をしなさい」と苦笑される。教師というより保父のようだ。
いつぞやには組がみんなして校外実習に出掛けることになったとき、「遠足いいなあ」と呟いたのが、は組のよい子たちに聴こえていたらしい。校外実習は4年のほうに出る事が決まっているタカ丸を、次の遠足に参加させるよう学園長に掛け合ってくれたのだという。最後は土井のほうが直々にお願いしてくれたということで、それを山田伝蔵から聞かされたときはタカ丸も平伏して土井に感謝したものだ。
「いやいや、私はあの子達の自主性を尊重してやりたいと思ったまでのことで」
土井は困ったような表情で笑って、タカ丸の肩を叩いた。「まあ、楽しみなさい、タカ丸君」
「タカ丸さんは遠足って出たことないんでしょう?」
「今日が初めてなの?」
「ねえ、今日楽しかったあ?」
ころころしたまるい生物に取り巻かれ、きゃわきゃわと尋ねられてタカ丸はにこにこ笑っている。タカ丸からすればどこまでも子どもで幼く見える伊助もは組の中では手のかからない、大人びた子どものスタンスにあるらしい。走り回る喜三太が転べば保健委員の乱太郎を呼び、団蔵が見知らぬ植物に触ってかぶれれば持ってきた水筒の水を突き出して手を洗わせた。「伊助、大人だねえ」褒めてやれば、伊助は頬をうっすらと赤くして、「庄ちゃんひとりだと大変だから」と微笑む。それでは伊助は学級委員長の庄左ヱ門の助けになりたくて甲斐甲斐しく動き回っているというのか。よしよし、とタカ丸が頭巾の上から頭を撫でれば、他のは組メンバーも「僕も」「私も」と寄ってくる。癒される。大変可愛らしい。タカ丸の頬もつい緩む。順番によしよしとやってやれば、向こうのほうで”庄ちゃん”が伊助に対して「よかったね」と微笑みかけている場面があり、それに答える伊助の笑顔がとろけそうで、あれまあ、と思った。


は組とて忍者である、とタカ丸が認識せざるを得なかったのは、今度の合同実習の話をしたときだった。兵太夫が、街娘の格好はすでに余所にばれているのだからやってはいけないと主張し、タカ丸は苦笑して、「知っているといっても九々知だもの」と返せば、よりにも寄ってぽんわりしたしんべヱにまで「甘い」と断言された。
「九々知先輩がタカ丸さんを裏切らないってどうしていえるんですかあ!」
「え、だって、だってへーすけ・・・九々知は僕の友達だし、」
「友達と実習は別のものでしょ」
きり丸が冷めた声音で言う。カルチャーショックに、タカ丸は顔色を失って黙り込む。そんな、そんな人間関係の非情なところを十の子どもから説かれるとは思っていなかった。父親が、忍者になるのを渋っていた理由の一端が、今ようやく知れた気がした。
「九々知先輩も有能な忍者ですからね」
庄左ヱ門は、油断なりませんよ、と呟くと、「タカ丸さん、内緒で変装の種類を変えてしまいなさい」と勧める。
「タカ丸さんは4年のなかでも上背があるから特に目立つ。誰か他の男の人と歩くといいんじゃないかなあ」
「タカ丸さんより背の高い人だね。恋人同士ってことにして、ちょっと腰を曲げてべったりくっついてればそれほど背も気にならないかも」
「着物はどうする、目立たないやつがいいよねえ」
「でも、恋人と歩いてるんでしょう、地味なもの着てると逆に変じゃない?」
ころころと急展開で話は進んでいく。タカ丸はきょとんとして、それでもようよう、「ねえ、緋色の着物じゃ可笑しいかい、」と尋ねた。緋色は九々知が似合うと褒めた色だった。
「止めましょう、九々知先輩が知っているものは」
「…うん」
しょんぼりと頷く。思えば実習なのだから、敵役に当たる九々知に相談したのは拙かった。頭では理解できるが、やはりなにか寂しい。
「忍者って、非情な世界だねえ」
しみじみと呟けば、「何を今更、」とあっさりと兵太夫に肯定される。向こうのほうでべそをかいている三治朗を抱き上げてその涙を拭っている土井は、これからも少しずつ、この子どもたちを非情な闇の世界の住人にしていくのか。「せいぜい楽しみなさい」と土井は笑った。その笑顔が嘘だとは思わない。
辛いことだなあ、とタカ丸は思い、しょんぼりした彼を心配して寄ってきた金吾や虎若をぎゅうと力いっぱい抱き締め苦しがらせた。
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