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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ④

④ 甘さを笑われること、あるいは好いた惚れたが徒となる


知ってるか、おたくの恋人鼠にされてるぜ。
雷蔵の顔が性格悪げな笑みで囁いた。組み合いの実技で突然そんなことをいわれたものだから、兵助は押し合いで負けて苦無を遠くに弾かれた。チッ、と軽く舌打ちして同級生たちが同じように組み合っている間を擦り抜けるようにして走り、苦無を拾いに掛かれば、組み合いを邪魔された何人かが「あー」と間抜けな声を上げ戦いを中断した。忍者の修行のための訓練であるのだから、邪魔されたとて文句は言えない。むしろ、邪魔が入って仕事ができなくなった自分たちに非があるのだ。「何をやってる、とっとと続けろ!」と教師の怒鳴り声がする。校庭の隅に植えつけられた防風樹に兵助の苦無は突き刺さり、彼はそれを引き抜きながら背中越しに遠く三郎の声を聞いた。
「せんせー、勝負つきました。私の勝ちです」
まったく、いい根性してやがる。苦無を懐にしまって戻ってきたら、兵助の不満は表情に出ていたのか、それとも三郎が空気を読んだのか、「情報を制するものは忍道を制す」などとおちゃらけて告げたので、兵助はその正論に言い返すことも叶わず、ただもやもやを拳に込めて、三郎の背中をガツンと強く殴りつけた。友は、甘んじてそれを受ける。
「斉藤タカ丸が鼠にされてる」
もう一度、三郎は告げる。兵助は別段驚くことも無かった。
「だろうな。あいつ相手が一番楽だ」
「あらら、驚かないのね」
「とっくに想像はついてた。成績下位者にとってはタカ丸がいることは僥倖だろう、不慣れだし、あんなに課題のとりやすい相手もいない。まあ、逆に下位者の間で競争率は高くなるだろうがな」
「ふふん、放っておいていいのかい」
三郎の言葉に兵助は苦笑する。
「なぜ助ける必要が?タカ丸がそれで怪我するわけでも無し、いい勉強になるだろう」
「まあ、そりゃ確かに」
三郎は頷く。今日は風が強い。ざわりと何度目かの強風が吹き付けて、校庭の黄砂を巻き上げる。少し吸い込んでしまって嫌な顔をする兵助に、三郎はポツリと呟く。
「友のよしみで告げておく。俺の鼠もにゃんこさんだよ。せいぜい気張るつもりなので、どうぞよろしく」
兵助は思ってもみない言葉を聞いて、眉を潜め振り返った。三郎はとっくに背中を向け、組み合いを終えて同級生と語らう雷蔵のもとへ向かっている。


雷蔵はもっと大物狙いで行くと思っていたが、と兵助が語るのに、雷蔵はくすりと鼻を鳴らした。
「恋は盲目というが、あれも存外馬鹿にならん教えのようだ」
兵助は嫌な顔を隠さず隣をあるく雷蔵を見た。三郎と瓜二つの顔をしている(三郎が彼の容貌をそっくり真似しているのだから当然のことだが)。だが、不思議と三郎と正体が紛れることがないのは、やはり精神の違いのせいか。三郎は普段、容貌は真似ても中身は自分のままで過ごしている。仕事として雷蔵になりきれば、おそらくまるで見分けがつかなくなるのかも知れないが。雷蔵は、三郎ならまず浮かべない不思議と静かな笑みを浮かべて、まっすぐ兵助を見返す。
「兵助、三郎がタカ丸を狙うとなぜ拙い」
「拙くはない。ただ、不思議なだけだ」
「拙いから理由が知れないだけのことではないのかい、答えは至極簡単だ」
「・・・雷蔵はわかるのか?」
「無論。僕は三郎がタカ丸を鼠にするだろうことをとっくに予想していたよ」
兵助が息を呑む。
「訊いてもいいか、なぜ、三郎はタカ丸を…」
「それは兵助、決まっているじゃあないか」
雷蔵が困ったように笑う。ざわり、と木々が鳴る。風呂から入ったばかりでこんな薄ら寒い話をするから、湯冷めでもしたか。兵助はぶるりと身体を震わせた。コーン。学園長室に設けられた獅子嚇しの音が狐の遠鳴きのようにも聞こえる。さわり、と風の音。雷蔵の唇がかすかに震え、空気を鳴らす。

「三郎はタカ丸を恋うている」

四肢が硬直した。息を呑むのを、なぜか重たい石でも飲み込んでいるかのように感じながら、兵助はようよう目の前の男を睨みつける。
「…まさか」
声は震えていた。雷蔵はなおも静かに微笑んでいたが、やがて「あはは、」と無邪気な笑い声を上げた。
「いや、ほんと、まさかだよねえ」
「はえ!?」
兵助の身体が打たれたようにびくりと跳ねる。心臓に悪いことを言われた、と思った。雷蔵は声をあげて笑うと、「そんな顔しないでよ、兵助。冗談だよ、悪かったってば」と声をあげた。
「え、な、なんだって?」
「もーう、兵助、ほんとに好きなんだねえ、タカ丸のこと。ごめんねえ、変なことを言って」
堪忍、堪忍。手を合わせて何遍も謝られる。なんだ、なんだ、なんなんだ??兵助にはついていけない。からかわれたのだろうという事だけ薄々気付いている。雷蔵は涙を拭うと笑いを飲み込んで、
「ああ、可笑しい」
と呟いた。
「兵助、タカ丸くんが狙われているのは、4年の餌にされている可能性があるからだよ」
「餌、」
「そう。好戦的なあの子達が、課題の死守で終わると思うかい?雷蔵はタカ丸くんを突いて蜂を出そうとしているわけ」
「あ・・・ああ、」
そこでようやく納得の言った兵助は間抜けな声をあげる。最もな論理だ、なぜ気付けなかったのだろう。
「田村に平か、確かに、あいつらなら考えるだろうな」
「双方から餌にされてタカ丸くんのことを思えば気の毒だがね」
「まあ、致し方ない。これも勉強だ」
兵助の言葉に、雷蔵は笑う。「よかった、そこまで目は曇ってなかったか。甘いのはむしろ三郎かな」
「うん?」
「あいつ、昨日僕に訊いてきたんだよ。タカ丸を餌にして兵助がどう思うかってね。いい作戦だから、どう思ってもいいさ、実行するべきだよといったら、それはそうなんだがなあとずっと渋っているものだから、それなら本人に告げてしまえといったのさ。全く、忍者が作戦の内容を他人に漏らす者があるかね情けない」
雷蔵の苦笑に兵助も苦く笑う。「成る程、甘いな」
「まあ、そういうわけだから。全く、可笑しい奴らばっかりだね、僕の周りは」
ああ可笑しい、と、かかと笑って雷蔵はスタスタと廊下を渡っていってしまう。「それより心配するべきことは他にあるだろうのにね」
最後の言葉に、うん、と顔を上げる。けれども雷蔵は背を向けたままいってしまったから、兵助は纏まらない頭でしばらく考えて、やがて息を吐いた。タカ丸に関して雷蔵の言っていることがいまいち理解できないことばかりだ。こりゃいよいよ本格的に盲になったかなと頭を振った。
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