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子どもの体温

こども竹谷パロ。続き。


「先天性不可全成長症候群」
真夜中。真っ暗闇の診療所に豆電球ひとつだけをつけて、食満は必死でカルテを漁っていた。医師である親に見つからないように、自宅とはいえ作業は慎重に進めなくてはいけない。竹谷八左ヱ門と古風な名前の書かれたカルテを見つけると、食満は手元のメモに病名を書き付けていく。
先天性不可全成長症候群。
震える指で、持ってきた「家庭の医学」全集を引いた。オレンジの裸電球に一匹の蛾が飛んでいた。そのおかげで手元がふっふっと薄暗くなるのが鬱陶しいと思った。よく覚えている。あとにも先にもあんなに怖かった夜はないからだった。暑い日だった。じっとりと肌に汗を湧かせながら、診療所の隅っこで、真剣に文字を追っていた。覚えている。風のない真夏の夜のことだった。
先天性不可全成長症候群。説明文は、当時中学生一年生だった食満には難しかったが、それでもどんな病気なのかはなんとか理解することができた。それは、決して大人になれないという呪いのような病気だった。

「今度の夏祭り一緒にいけなくなっちまった。ごめんな」
「別にいいよ」
ひどく騒ぎ立てるだろうと思ったのに、覚悟して謝ったわりには、八左ヱ門の反応はあっさりしていた。
「統一模試の終了時刻が、八時なんだよな。そんな遅くまでテストなんてうんざりしちまうよ」
「受験生は大変だなー」
「お前も来年は受験生だろ。覚悟しとけよ」
食満の言葉に、八左ヱ門はうんざりした表情で舌を出した。
「祭りは孫兵と行こうーっと」
「ああ、小学校時代の後輩だったか?」
「そう。今は中学三年生!」
「受験生じゃねえか。連れまわしていいのかあ?」
「いいんだよ。孫兵は頭いいから、留兄と違って一日くらい受験勉強さぼっても合格できるの!」
食満はにっこり笑って、生意気なことを言う八左ヱ門のこめかみを拳で両側からぐりぐりと押した。いたいいたい!と八左ヱ門が身をよじる。暴れるのを食満の父親が食満をにらみつけることで終わらせた。
「留三郎!診察の邪魔をするなら出て行け」
「あ、ごめん、先生。俺、ちゃんと大人しくするから」
なぜか殊勝に謝ったのは八左ヱ門のほうだった。ちょこんと診察椅子に腰掛けている。その細い足は床まで届いていない。子供用のスリッパが足からつるんと滑り落ちてリノリウムの床に散らばっていた。ぺらりとシャツを捲って肌を見せる。そこにあるのは小学生のまるんとした柔らかな輪郭の腹で、食満は見てはいけないものを見ているような気がしてそっと視線をそらせた。
「心音異常なし。じゃあ、向こうで体重と身長を測ろうか」
留三郎、と呼ばれて、彼は診察室の奥から体重計と子供用の身長測定器を運んできた。
「じゃあ、靴下脱いでな」
「うん」
八左ヱ門は靴下を脱ぐと身長測定器のほうに立った。彼の身長は成長の止まった12歳のときからずっと140センチ台で止まっていた。
「留兄、何センチだった?」
「ん~・・・143」
「マジ?一センチ伸びてる!」
八左ヱ門は目を輝かせてその場で飛び跳ねた。「一センチ伸びてるっ!ヤッタ!」ぴょんぴょんその場で飛び跳ねるさまは、実年齢が高校二年生なのだとはとてもわからない。食満は「よかったな」と声をかけて、苦笑した。

食満が最初に八左ヱ門と出会ったのは、中学二年のときだった。その頃、八左ヱ門は患者として食満の診療所に通っていた。田舎の村の小さな診療所に、彼の母親は彼を連れて毎日通っていた。そうして熱心に「何とかして治らないんですか」「本当にもう手はないんですか」としきりに繰り返すのだった。はじめのうちは形だけでも診察していた父親も、しまいには竹谷母子が来てももう聴診器を取り上げることもせず、母親の話をただ黙って聞いてやるだけになった。それはほとんど、カウンセリングと同じだった。父親が、八左ヱ門の母親の心の傷を癒している間、食満は八左ヱ門と遊んでやるようになった。彼が何の病気にかかっているかは知らなかったが、母親の様子から、何かとても大変な病気にかかっているだろうことが知れた。
ある日の夕食時、父親は「彼女は」という言い方で竹谷の母親のことを話題に出した。
「八左ヱ門君を誰にも見せたくなくて、こんな田舎につれて逃げてきたのだろう。八左ヱ門君がかわいそうだな」
食満は、八左ヱ門が何の病気か尋ねた。だが、父親はそのうちわかる、といって決して自分から病名を明かそうとしないのだった。それから一年たって、食満は八左ヱ門の抱える異常性に気がついた。年のわりに幼い顔立ちだとは思っていた。だが、それは成長が遅れているためではなかった。
まったく成長していなかったのだ。
八左ヱ門は中学二年生になった。だが、彼の姿は小学生のままだった。そのことに気がついた日、食満は内緒で八左ヱ門のカルテを探った。先天性不可全成長症候群。それは、成長が止まって一生子どものままの容姿でいるという病気だった。
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