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子どもの体温

もうちょっとだけ続く。


試験で祭りにいけないというのは嘘ではなかったのだ。
竹谷の中で、嘘になってしまっただけで。
試験が終わったとき、時計の針は八時ちょっと過ぎをさしていた。今から祭りに行こうか、そうしたら竹谷にも会えるかもしれない。そう考えて、しかし食満はふと思考をやめた。なぜ自分はそこまでして竹谷のそばにいてやらなくてはいけないと思っているのだろう。出会ったころから何においても竹谷を優先して面倒を見てきた。それは相手が病気の人間だという労りの心からだろうか。それとも、自分が世話好きな性格だからか。そのどちらもあるだろう、しかし、それだけが理由ではないように思えた。なぜだなぜだ、と考える。心が、竹谷のもとへ行きたがっている。だが冷静に考えれば、竹谷は今日は後輩と祭りに行くといっていたのではなかったか。今から祭りに行って、竹谷に出会えたとして、どうするというのだ。自分はどうしたいのだろう。
もやもやと考え込んでいたら、クラスメイトの伊作が話しかけてきた。外部模試だから周囲には他校の生徒があふれ帰っているのだが、どうやら近所の大学の構内を借り切った広い試験会場で、ふたりは同じ教室だったらしい。
「留さん、お疲れ」
伊作はにこにこと話しかけてくる。
「テストどうだった」
「数学がヤバイ。ありゃ確実に点落ちたな」
「僕は古典だよー。最近調子こいて理数ばっか勉強してたらわかんないのなんのって」
伊作は薬学部志望だ。食満は教育学部。お互いに進路は分かたれていく。田舎だから、伊作とは小学校からの付き合いだ。大学進学は伊作は東京へ行くし、食満も地元を離れる予定でいるから、こんなふうに当たり前に会話をするのも今年が最後だろう。人は、成長していくなかで必ず出会いと別れを繰り返す。
「いい判定もらえてる?」
「BとCを行ったり来たりって感じだな」
「僕なんかDもらうこともあるよ」
食満がかばんを持ち上げると、伊作は「あ、そうそう」と思いついたように行った。
「知ってる?今日諏訪部神社の祭りやってるよ」
「おう。毎年行ってる」
「え、ほんと?僕行ったことなくてさ、留さん、よかったら一緒に寄ってかない?」
「いいけど、終わりかけだぞ」
「いいよいいよ、一回くらい行っときたいんだよね。ほら、地元離れる前にさ」


祭囃子が聞こえる。橙の裸電球が境内沿いに社まで続いて、ずいぶんと賑やかな様相だ。祭りに行くといったら、孫兵の母親は、わざわざ浴衣を出してきた。
「いいよ、洋服で」
孫兵が嫌がるのを、「せっかくだから」と行ってきかなかった。昔から孫兵の母親は、孫兵が外へ出て行こうとするのを喜ぶ。
「お祭り、誰と行くの」
「・・・竹谷先輩。覚えてる?小学校のときよく遊んでもらった、」
「ああ、懐かしいわね。引っ越しちゃった子でしょう?元気なの?」
「うん」
「今は高校生ぐらいか。腕白な感じの子だったから、さぞ育ってるんでしょうね。祭りが終わったら連れてらっしゃいよ」
「う~ん・・・先輩こないと思うから」
「なんで、誘ってみなくちゃわからないじゃない」
「うん・・・」
孫兵の消極的な返事を、母親は不思議に思ったようだった。
竹谷とは境内にある大きな杉の木のもとで待ち合わせをした。竹谷は子供用の甚平に下駄を履いていた。
「あっ、お前浴衣だな!」
「はい。先輩も甚平ですね」
「久々知が着てけってさー。なんだか知んないけど、祭り気分を味わうためだってさ」
「涼しくていい感じですよ」
「ま、涼しいのは確かかな」
ふたりで連れ立ってぶらぶらと境内を歩く。時々屋台を冷やかして、竹谷が射的をやったり、金魚掬いをやったりした。孫兵は隣を歩いて、食べ物を買っては竹谷に分けている。
「先輩焼きソバ食べませんか」
「お前が買ったやつだしお前が食ったらいいのに」
「でも僕、腹いっぱいなんです」
「ならなんで買うんだよー」
「なんでだろ、先輩なら食べるかなーと思って」
「まあ、いいんならもらうけど」
「どうぞ」
プラスチックパックにつめられた冷たい焼きソバを竹谷が割り箸で持ち上げては口に運んでいく。小学生にしては上手に食べていくのを、孫兵はぼんやり見ている。
「孫兵、」
「はい?」
「別に敬語使わなくていいぞ、くすぐったいし」
「だって、先輩だから」
「先輩じゃねーよ。俺のが後輩じゃん」
「・・・」
「小学生にさ、敬語なんて使わなくっていいって。変な目で見られるぞ」
孫兵は何もいえなかった。竹谷はごちそうさまでしたと丁寧に手を合わせると、空きパックを自分のかばんに詰め込み、そのまま孫兵の手を引っ張った。
「たくさんいるからなー道に迷うなよ」
そのお兄ちゃんぶった姿を、すれ違った少女たちが「かわいい」と笑い声を上げていく。だけど孫兵は笑えなかった。

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