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子どもが寝たあとで①

やもめのような食満竹。(食伊がほのかにあるので注意)


伊作と別れた。
いや、分かれたという表現では正確ではない。なぜなら、正しい意味ではふたりは付き合っていなかったからだ。告白だの意思の疎通だのという儀式を飛び越えて、いきなり関係を持ってしまった。
今考えても、どうしてあんなことになったのか、本当に、魔が差したとしか思われなかった。夏の夕べで、縁側に座ったまま伊作が団扇を使っていた。暑い、暑い、としきりに呟く彼の首筋を食満はぼんやり見ていた。伊作はずっと文次郎が好きだった。食満は伊作の想いなどとうに知っていたから、彼も隠すようなことはなくて、よく自分の恋がままならぬのを、冗談めかして笑っていた。「仙ちゃん相手じゃ、僕の微か過ぎるほどの幸運じゃ手が出せないさ」
ごろ・・・と、遠雷が鳴った。「おい、降るから閉めるぞ」と食漫が伊作の背後から障子に手を伸ばした。伊作は、精神的に参っていたのかもしれない、そのまま食満の胸元にもたれ掛かってきた。それが始まりだった。
それから何度か関係を持った。食満は伊作が好きだったから、不毛な関係だとは思いつつ止める気にならなかった。やっぱりやめよう、と言い出したのは伊作のほうからだった。
「やっぱりやめよう。こんなのは、間違ってる」
「俺はお前が好きだ」
「知ってる。でも、ごめん」
ひどく疲れた、と食満は思った。そう思いながらぼんやり日々を過ごしていた。
落ち込む日は、仕事に没頭するのが一番だ。食満は用もなく用具倉庫に足を向けては、日がな一日そこで過ごした。そのうち、律儀な富松が食満が手慰みに用具の整理やら修補などをするのを手伝い始めた。そうなるとあとはもう委員会が始まってしまったようなもので、時間が空くたびに一、二年生たちも集まってくるようになった。
竹谷と詳しく口を聞くようになったのは、そんな時期のことだった。

ある放課後、いつものように用具の整備をしていると、生物委員が尋ねてきた。生物委員は一年ばかりだから、「失礼します。用具委員、入ります!」と声がかかったあとで、小さい子どもたちがきゃわきゃわと入ってきた。それから三年の伊賀崎が相変わらず首に毒蛇を巻きつけて、失礼します、と倉庫の奥に作られた小部屋の敷居をまたいだ。最後に入ってきたのが、委員長代理の竹谷だった。
「失礼します!委員長代理の竹谷八左ヱ門です。食満先輩にお願いがあってきました」
はきはきと気持ちのいい挨拶をすると、そのまま「せいれーつ!」と声を上げるので、突然のことに食満は面食らった。竹谷の号令に、わやわやと倉庫に散らばっていた下級生たちが戻ってきて横一列に並んだ。運動会か体育の号令のようだと食満は思った。
「気をつけ!」「食満先輩に、礼!」
「「「おねがいします!」」」
全員で声を合わせて、ぺこりと礼をされたのが、とてもかわいかった。富松が横で、小さく吹き出すのが聞こえた。

竹谷のお願いというのは、飼育小屋の鍵の修理だった。
「はじめは誰かの悪戯だと思ってたんです。でもあんまりよく壊れるんで、もしかしたら、鍵自体が悪いのかと思って。見ていただきたいんです」
竹谷は鉄でできた錠を食満に渡した。食満は手に取ると、目を細めて色んな角度からまじまじと見つめた。
「いつ買ったやつだ」
「えっと、去年の今頃です。委員長が市で買ってきてくださったんです」
「粗悪品だ。合わせの部分がゆがんでる」
「買い換えたほうがいいですか」
「まあ、そうだな」
「直せませんか」
「いつも生き物が逃げて困ってるんじゃなかったか。新しい、もっといいものを買ったほうが無難だぞ」
「予算が足りなくて」
竹谷が苦笑して、ぼさぼさの頭を掻いた。食満は溜息をつくと、「ま、暇だしな。直してやる」とそれを請け負った。
「ありがとうございます!」
竹谷が嬉しそうに笑った。それがあんまり明るいものだから、食満は、花が咲いたか、太陽が照ったようだと思った。竹谷の足元にぎゅうぎゅうとしがみ付いていた一年生たちが、竹谷の後に続いて「ありがとうございまーす!」と明るい声を上げて頭を下げた。それから竹谷を見上げて「先輩よかったですね」「もう虫逃げないの?」「先輩嬉しいですか」などときゃわきゃわ尋ねた。竹谷はひとりひとりの頭を大振りに撫でると、笑顔で「おう、やったな!」「うん、もう、ミーちゃんもチュウべヱも迷子にならないぞ」などと答えてやっているのだった。食満は瞳を細めながら、その光景を見つめた。これは子どもにもてるだろう、と竹谷を見遣る。その視線に気がついたか竹谷は顔を上げると、食満に向かって、無邪気な笑みを返した。

鍵の修補にはちょっとした時間がかかった。その間生物委員たちは倉庫の中で思い思いに遊んでいたようだった。倉庫は光が届かぬから、子どもたちはすぐ嫌になるだろうと踏んでいたのだが、竹谷が待ち時間をいっしょに遊んでやっているから退屈しないでそこにいるらしい。おかげで食満は、鍵を直す作業に集中することができた。しばらくたって、喜三太が食満の腕を引いた。
「先輩、僕のなめ千代がお外にいっちゃいました。探してきていいですか?」
用具倉庫の周辺には、危険な薬草園だの実習で仕掛けられたトラップだのが張られていて間違って入ると危ない場所がいくつもある。食満はいつも自分が一緒についていくことにしていた。
「喜三太、少し待て。今火を使っているからすぐにやめられんのだ」
「でもなめ千代が」
「だったら富松に、」
と顔を上げて、ア、と口をつぐんだ。富松は孫兵とふたりで鉄を打つための火を用意していた。富松が困ったようにこちらを見ている。ふいに、横から声がかかった。
「俺が行きましょうか?」
竹谷だった。「頼めるか、」というと「はい」と明るく頷く。しゃがみ込んで喜三太に背を合わせると、笑顔で話しかける。喜三太は可愛らしいけれど、特殊な性癖があるしマイペースで掴みづらいから面倒がる上級生も少なくない。竹谷は喜三太に苦痛を感じていないようで、食満はひとまずほっとした。
「俺と一緒になめ千代を探そうな!名前は?」
「山村喜三太です」
竹谷が喜三太の手を握る。その首には一平がしがみ付いている。背中からは喜三太のクラスメイトの虎若と三治郎としんべヱも覗いていた。子どもに囲まれているなかで竹谷は明るい声を上げる。
「よーし、なめ千代探しにしゅっぱ~つ!」
「僕も行く~」「僕も~」次々と子どもたちがついていって、倉庫は一気に空になった。
「凄いな、子どもに好かれるんだな」
感心したように呟いたら、伊賀崎が自慢するような口ぶりで少し胸をそらせて「そうですよ」と頷いた。富松は何を思ったか、「食満先輩も負けてないっすよ!」と頬を紅潮させて勢い込んで呟くので、「なに対抗してんだ、ばーか」と笑ってやった。
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