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一番綺麗な水③

富松作兵衛は豪快に落ちてくる滝に全身を打たせながら、もう一刻ほども岩の上から動かない。水浴びにはまだ早すぎる早春に、平然と褌ひとつで座禅を組んでいる。苦悶に満ちているのは表情で、眉間の辺りにぎゅっと皺が寄り、ひどく何かに苦悩している様子である。しかしそれは、水の冷たさが原因ではない。彼は、彼の精神と闘っているのだ。
「ちくしょ~・・・なんだってこんなことに」
両手で印を結びながら、ぶつぶつと作兵衛は何ごとかを呟いている。
「やべえぞ~。こりゃ本格的にやべえ事態になっちまった~。どうする俺、どうするよ!?」
冷たい滝の水は、彼を責め立てるように殴りつけてくる。その痛さが、今の作兵衛には救いだった。もともと彼の弱点は、その思いこみの激しさにある。戦場にあって、被害妄想にも近い思いこみは、冷静な判断を遠ざけ、勝てるものを勝てなくさせる。作兵衛はなんとしてでもこの戦を勝利に持って行かなくてはならい。ともすれば弱気になる思考を、滝が叩き直してくれるのはありがたかった。
しかし、それにしても、
「やべえ~」
状況である。
滝のすぐ脇の林が、ざわりと揺れた。作兵衛は静かに目を開く。それを合図にして、囁くような声が聞こえた。
「イヌイ、ただいま帰りましてございまする」
「おう。それで、村の動きはどうだった」
「竹谷一族と、蠱遣いの村は手を組みました」
「やっぱりな。それで、次はどう出る」
「次攻められるまでは動かずを守るようにござりまする」
「さすが、ふたりだ。賢明な判断だな。で、食満先ぱ・・・頭領のご判断は?」
「明日後蠱遣いの村を焼けとのご指示にござります」
作兵衛は慌てて立ち上がった。目を見開いて林を見た。よもや、よもやと思っていたが!
「そりゃマジか!?」
思わず叫ぶが、返事はない。返事がないのが肯定の証だ。作兵衛はその場で地団駄を踏んだ。
「先輩駄目だ!!」
作兵衛のいる場所が、食満のいる城から遠く離れていることも忘れて、作兵衛は声を張り上げた。どうしようもないことを強請る、頑是無い子どもの気分だった。
「駄目だ、先輩!戦になるッ!!戦になったら、あんたか孫兵たちの、どっちかが死んじまうだぞッッ!!!」


心労がかさんで疲れているのだろう。村に身を置いて3日ほど経ったある日、とうとう竹谷は熱を出して床に伏してしまった。次に向こうが手を出してくるまでは、こちらからは何もしないというのは、竹谷の判断だった。孫兵は、竹谷の案を聞くと、「従います」とだけ言った。
「戦にはしたくない」
竹谷は天井を見つめて言った。熱で瞳がきらきらと潤んでいる。頬が真っ赤に染まって、ふだんよりよほど女じみているのがおかしかった。孫兵は手ずから濡れ布巾を絞って、竹谷の額にのせた。
「戦にすれば、圧倒的にこちらの分が悪い。こちらの兵力はわずかすぎる」
「正攻法でぶつかり合えばまず勝ち目はありません。あちらの攻撃に耐えつつ、裏で交渉を勧めて和平にもってゆくのが一番でしょう」
「ああ、その通りだ・・・」
竹谷は息を吐くように頷き、それから、気弱げに「和平交渉か」と呟いた。
「そんなことが可能だろうか」
それは独り言のように聞こえた。孫兵はどう答えるべきか思案して、ふと、屋敷から庭を見た。竹谷の心をなぐさめる為に開かれた障子からは、美しい自然の風景が見えている。早咲きの花に、ふわふわと羽化したての蝶が舞う。ときどき、具合を伺うように部屋に入ってきては、竹谷の指先や、孫兵の肩の辺りを飛び回るのだった。庭の隅では、どこからやってきたのだか、猪や猿や野犬が、じっと部屋の守りをするように目を閉じて丸くなっているのだった。おそらくは、竹谷を見えざる敵から守ろうとしているのだろう。虫たちや動物たちに見守られたこの部屋の中で、ふたりの人間が静かに会話しているのは、あまりに神秘的で、あまりに自然で、どこか儚げな光景だった。
「先輩の一族も、僕の村も、特定の主をもっているわけではない。雇われればどこにだって味方する。それを、殲滅させようというのは、どうにも解せぬことです。要求をつっぱねて腹が立ったとはいえ、それだけで戦を仕掛けてくるにはあまりに傲慢で、リスクの高い出方だと思います。とうてい、我らの力を必要としている諸侯も黙っておりますまいに」
「俺が悪いんだ」
竹谷は苦しそうに眉をひそめた。ふっ、と息を吐いて目を閉じる。孫兵の視線を怖がってでもいるかのようだった。
「あちらの抱える忍者隊の首領が誰かはお前も知っているだろう」
「食満留三郎」
「その通り。・・・俺は、食満殿の謀反に協力しようとした」
孫兵は、目を細めてつい、と顔を背けた。責める視線になりそうなのを、竹谷から反らした。恋情故にとでも言うのか、馬鹿なことを。内心で責めた。
「が、結果は失敗。俺は食満殿の謀反計画の罪を被り、彼をたぶらかした危険な女として、こうして村を焼かれた」
「それで、その人は今どうしているんです」
「おそらく・・・忍者隊に戻っていると思う。謀反の意がなかったことを見せるためには、大人しく命を聞いて俺の村を焼くしかあるまい」
孫兵は黙って立ち上がった。竹谷は出て行くのかと思ったが、彼は障子を閉めると、また竹谷のほうへ戻ってきて腰を下ろした。
「あなたは馬鹿です」
まっすぐな視線が竹谷を見ていた。そこからは、あいかわずなんの感情も読み取れはしなかった。ただ、美しい純度の高い琥珀の瞳が、竹谷を映している。吸い込まれそうとはこういう気持ちかと、竹谷は思った。我が身の恥とでも言うべき話をしているのに、不思議と目が離せなかった。
「孫兵」
竹谷の瞳が不意に揺れた。彼女も与り知らぬところで、勝手に涙がこぼれた。
「孫兵、」
何かを言うべきだと思ったが、何を言うべきなのかさっぱりわからなかった。おずおずと伸ばした手を、孫兵の白い血色の悪いような腕が取った。その腕はひやりと冷たく、竹谷は驚いて、少し目を見張った。ぽろ、とたまっていた涙がこぼれ落ちた。
「孫兵、情けないのを承知で頼む。俺の村を助けてくれ」
開いた唇はみっともなく震えて、頼りない声でようやく縋った。孫兵は竹谷の涙を指で拭うと、そのままその唇をそっと吸った。竹谷のまんまるに見開いた瞳に、自分の姿だけが映っているのを見て口元に笑みを刷いた。
「先輩、僕はあなたを見放したりしません。あなたのことは僕が守る」
「・・・孫、兵・・・?」
「僕はあなたと結婚しないといったけれど、それはあなたのことが嫌いだからではない。他に好きな女がいるからでもない」
孫兵がまっすぐ竹谷を見ている。竹谷は息を呑んだ。
「あなたが好きだからです」
孫兵はにっこりと微笑みを浮かべる。学園にいたころから、虫以外には竹谷ぐらいにしか満面の笑みを浮かべない孫兵だった。
「あなたが好きです」
竹谷の顔が真っ赤に染まり、それから、蒼くなった。
耳元で、いつかの食満の声がしている。
(・・・ハチ、必ず迎えに行く)
少し先になるかもしれない。だが、必ず迎えに行く。
竹谷は、声の出し方も忘れて、ただただ目の前の愛に戦くように身体を震わせていた。


なんだかメロドラマ。

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