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好き好き大好き超愛してる③

三郎がカウンターでAランチを受けとって雷蔵の座っていた席へ戻ってくると、そこには、困りきった表情をした竹谷が座って縋るように三郎を見上げていた。
「雷蔵は?」
「どっか行った」
「飯は?」
「いらないって」
久々知がしらっとした表情で、肩越しに鉢屋を見上げた。ぼそりと低い声で歌う。
「おーこらせた、怒らせた。らーいぞうを怒らせた♪よかったな、嫉妬してもらえて、三郎」
ぷるぷると三郎の身体が小刻みに震えている。泣くのを我慢しているのだ。ふだん悪戯ばっかりして尊大で鷹揚な態度ばかりを見せつけている妖者の術の天才が、実は繊細で傷つきやすい性質であることを知っている竹谷は、久々知のサドっ気に無言で、やめてやれ、と首を振る。ぐし、うっく、えく、と三郎が小さく嗚咽するのを聞いて、竹谷は、
「・・・謝ったら?」
と至極まともな意見を述べた。三郎は何も言わなかったが、きっと今夜あたり雷蔵と仲直りするだろう。彼のいつもの馬鹿な思いつきは、今回はこれで閉幕するのだろうと、竹谷と久々知は疑わなかった。そう、まさか、この小さないさかいがあんな大事に発展するだなんて誰が予測しただろうか。


五年ろ組の席順は、一番後ろの教師に見つかりにくい人気席に、雷蔵と三郎が並んでいる。この、三郎にとって文句なしのいい席順は、もちろん奇跡なんかではなくて、彼が籤引きに細工をして成し遂げたものである。三郎にとって、奇跡は「自ら作り出すもの」であった。だが、この日ばかりは三郎も、この席順を恨んだろう。なにせ、三郎の隣では不機嫌を隠さない雷蔵が、長い文机を隣同士に分け合っているのである。三郎はびくびくしながら、謝るチャンスを掴もうと必死である。上目遣いに雷蔵の顔を覗き込んでみても、彼は教科書と黒板に視線を行き来させるだけで、決して三郎の視線の侵入を許さない。鉄壁の構えであった。三郎は仕方なしに、草紙を一枚破って、「ごめんなさい」と書き付けて、雷蔵に渡した。雷蔵はそれを片手で握りつぶして、三郎につき返す。視線は黒板を見つめたままである。雷蔵のあまりの沙汰に、三郎は息が止まるかと思うほど驚き、絶望した。朝ちょっと生意気な口を利いたことが、こんなに彼を怒らせるとは!
しょんぼりした三郎と、その横で怒りも心頭な様子の雷蔵を振り返って、竹谷は心配げな様子である。あまりにふたりを心配していて、竹谷は、自分が木下鉄丸から苛立った様子で何度も名を呼ばれていることに気づかなかった。
「竹谷ーッ!!」
ついには怒鳴りつけられて、竹谷はびくん、と大きく身体を揺らす。
「なにを鉢屋ばかり見つめとるんだ、馬鹿者っ!」
「えっ、あっ、」
それは厳しい木下なりの冗談を効かせた文句のはずだった。木下は厳しく、生徒に打ち解けないこと心情にしているが、竹谷にだけはわりと優しい表情を見せた。それは竹谷のひとなつっこい性格によるものだろう。さらに木下は、賢い三郎ならば自分の冗談を上手く返せると見込んだのだ。
「げーっ、木下先生、気持ち悪いこといわないでくださいよ~」
などと軽口を叩いて舌を出し、それに竹谷が「気持ち悪いってなんだよ!」などとプンスコ怒ることで、授業中の雰囲気を和らげようとしたのであった。・・・なにせ、今日は雷蔵の不機嫌でクラス全体が妙に緊張しているのである。
ところが、焦る竹谷の向こうで、雷蔵がクールに「木下先生、そんなことより授業を進めてください」と返し、その言葉に鉢屋が突っ伏して泣き出してしまい、事態はますます酷いものとなった。木下鉄丸は、思春期の男子生徒たちを教えることの難しさを想って溜息を吐いた。


おかしい、と呟いて首を捻ったのは久々知である。放課後の食堂でのことであった。竹谷から今日一日の雷蔵の不機嫌っぷりを困りきった態で訴えられての返答であった。
「雷蔵は別件でも何か起こってるんじゃないのか」
「今日の三郎の対応だけじゃないってことか」
「あんなこと、いつもの雷蔵だったらとっくに許していてしかるべきだ。それが、こんなに根が深いとなるとな、三郎は外に何かやっているのかもしれない」
「ありえない話じゃないな」
なにせ、雷蔵は怒りをためるところがある。とにかく、と竹谷は腹を擦りながら「はやく仲直りしてもらわないと、俺のほうが参っちまうよ」と深く溜息をついた。その背中を久々知が軽く叩く。
「ま、早いとこ原因を探って俺たちで仲直りさせよう」
「おう」
久々知の突き出した拳に、竹谷がコツンと己の拳をぶつけて、ふたりはふっとお互いに表情を緩める。緩やかな空気が流れた、そのときだった。背後で孫兵が、震えた声で竹谷を呼んだ。
「先輩、先輩、お話したいことがあります!」
竹谷は振り返って、なんだと問う。それに、ここでは無理だ、と美貌の後輩は恥らうように首を横に振った。竹谷は瞳をぱちくりさせた後、じゃあ、飼育小屋のあたりまでいくか、あそこなら人影もないし、と気を使ってくれるのに孫兵は頷く。竹谷が腰を上げると、久々知も、なら俺も委員会に行こうかなとなんのけなしに呟いた。それから竹谷が、「兵助、また夜にな」と片手を挙げるのに、ぽん、とそれを叩き返してやれば、孫兵が恐ろしい表情でこちらを睨んでるのに気がついて、首をすくめた。
(・・・なんだ、一体)

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