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好きが過ぎる

実はさこふしも好きです。


伏木蔵がひどい怪我を負って戻って来たときも、左近はやはり罵る言葉をかけた。
「馬鹿な、油断をして!」
こんなときくらい、よくやったという労いの一言くらいあってもいいはずだ。伏木蔵は、救援が来るまでの一夜を、ひとりで頑張ったのだ。伏木蔵が仲間に負ぶわれて戻ってきたとき、彼は腹から血を流していた。もともと顔色はよくないほうだったけれども、傷口が毒に置かされて血が止まらないために失血した彼は、蝋のように真っ白な表情で、それでも最初に敵方から奪ってきた古文書の解読法を伝えた。そうしてそのまま左近の罵りを浴びながら意識を混濁させた。
伏木蔵の手術は左近が行った。学園中で、左近以上に手術が巧い者は、いなくなっていた。長い手術が終わって汗だくで医務室をでてきた左近を、三郎次は廊下で迎えた。
「上手く行ったか」
そう問うと、左近は、「さあな」と言い放った。ずいぶんと冷たいいいようだが、それはこの男の性質で、何年か前に委員長職についていた先輩で、善法寺という優男がいたが、彼の口癖で、患者は患者である限り「もう大丈夫」ということはないのだと繰り返し左近に説いたそうな。それ以来、左近は治るまで「大丈夫」とか「きっとよくなる」だとかいう慰めを言わない。患者に、少しの希望も与えないことは、三郎次にとってはよしとするべきなのか非常に悩むところであるのだが、それだけ左近の責任感が強いということなのだろう。それに、本当は左近こそが誰より伏木蔵の無事を願っているはずだった。左近は、関係を否定するが、伏木蔵のことを誰より気にかけているのは確かにこの男だった。
例えば、伏木蔵の実習がある前夜は、必ず自ら会いにいって一言かけた。それはたいてい戒めの言葉や生意気な挑発的な一言だったりしたが、伏木蔵は可憐で儚い容姿をして、あれでなかなか図太い、肝の座ったところがあるので、同級生の誰かが「川西先輩はひどい」などと責めるのを、たいして気にとめない表情で「あのひとはああいう人だから」とさらりと返した。そうして実習から帰ってくると、また自ら会いにきた。伏木蔵が全くの無事であると、今度の実習はよほど簡単だったようだと馬鹿にしたようなことをいい、怪我をして帰ると「弱いくせに調子にのるからだ」と鼻を鳴らして、包帯を取って醜い傷跡を丁寧に検分した。治る傷もあったし、残る傷もあった。二年前に伏木蔵は大きな怪我をして、顔面の左半分に火傷を負った。大概は左近の処置で綺麗に癒えたが、前髪で隠れる部分にケロイドが残った。伏木蔵はそれから、醜い皮膚を隠すために横髪をひっつめてしまうのをやめた。油断しているときに人前で髪をかきあげたときなどは、赤黒く変色しでこぼこと醜く歪んだ膚が見えた。大きく微笑むと、目じりの辺りが引きつって歪に見えた。伏木蔵はみっともないからと満面の笑みを浮かべることはしなくなった。笑うときはいつも不自然に手のひらで顔の左を覆うのが常だった。
一度、その傷を左近の処置の悪さが原因だと詰った男があった。その男は、伏木蔵と特別仲がよく、彼のことを誰より大切に思っていたのだろう。傍で男の言い分を聞いていた誰もが、それは違うと考え、左近の腕を疑わなかった。伏木蔵の火傷は、運が悪かった、左近は出来るところまで手を尽くしたのだ、と。ところが左近本人が、「そうかもしれない」と肯定するようなことを言ったものだから、その男はますます罵りを重ねるようになった。引き攣ったような暗い笑いを浮かべて思いついたあらゆる言葉で左近を詰っていくその男に、左近は怒るでもなく平静な表情でまともに話を聞いてやっていた。
「伏木蔵に詫びろ」
と男がいい、周囲はそんな必要はないといきり立ったが、左近は伏木蔵の前に立つと神妙な表情で、
「俺の力が足りずに、直してやれんですまないな」
と言った。伏木蔵は何の返事も返さなかったが、その場で持っていた苦無でケロイドを隠していた長い横髪を切り落としてしまった。はらはらと髪が足元に散り、白い膚に醜いケロイドが無惨に目立った。
「ああ、清々した」
と伏木蔵は呟いて、それから微笑んだ。目じりの引きつりなぞおっつかないほど美しい笑みを浮かべると、「僕はこんな傷最初ッからまるっきり気にしちゃいません。先輩に哀れに思われるようなことじゃないや」と言い捨てて鼻歌でも歌いだしそうな様子で背中を向けていってしまった。
左近と伏木蔵の関係は、他の者が推し量れない風変わりなつながりだった。
さて、憔悴した様子でながく溜息をついた左近に濡れ手ぬぐいを渡して、三郎次は、後は俺が看よう、と申し出た。左近は伏木蔵の治療にかかりきりで、三日三晩まともに寝ていなかった。左近は「ありがたいが、」と気を許した仲間にだけ見せる笑みを浮かべると、「あいつを他に渡したくないんだ」と淡々と言った。
三郎次はびっくりして、「あいつというのは伏木蔵か」と問わずもがなのことを口に出してしまった。野暮なことを言ったと頬を赤くすると、左近は苦笑して、
「そうだ」
と頷いた。
「俺は忍びだから、あいつのためには生きられないし、あいつもそうだろう。そもそも、俺の想いをあいつに伝える気もない。あいつはあいつの生を生きたらいい。だけど、せめて、あいつの傷は俺が癒す。それだけは他の誰にも譲らないと決めているんだ。ずいぶんとちっぽけな矜持だがな」
左近は自嘲気味に言ったが、三郎次は、いつかの伏木蔵に詫びた左近を思い出して目の前の男の不器用を切なく思った。
「ばかだなあ」とようやくそれだけ言ってやると、左近は「そうだろう」と頷いて
「俺も自分で呆れるよ」
と溜息交じりの苦笑を返した。医務室から小さく伏木蔵の寝息が聞こえて三郎次は、小さく安堵の息を吐いた。この後輩もまた、大人しく守られるタマではない。左近の覚悟と決意など聞いたら、「あなたにそんなこと望んでない」とさらりと言って、鼻で笑ったりするのだろう。似合いのふたりだよ、と三郎次はにやにや笑って、左近の背中をばしばし叩いた。
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