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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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人でなしの恋⑥

妖怪パロ。
ま、第一部完的な感じで。もし二があれば絶対くくタカ出す!

---------- キリトリ -----------

「梃子摺らせてくれる」と伊作は汗を拭いながら呟かずに居れなかった。破魔の呪を彫った岩に三郎をやっとの思いでくくりつけてやった。何十にも麻縄で岩に身体を巻きつけた後、三郎の眼前にどかりと座り込んでひたすら呪文を唱える。それは三郎狐の妖力を封じ込めるためのものだったが、思うように効いてはくれず、三郎に縄を引きちぎらせない程度に押さえ込むことしか適わないでいた。
「俺を殺すか、下郎」
地を這うような声で三郎が吐き捨てた。伊作は知らぬ顔で呪文を唱え続けている。
「殺しても無駄ぞ、俺は滅した後もこの村だけは許さん。一生祟ってやるわ。作物の実り育たぬ死の土地にしてやろうとも」
けけけ、と三郎が笑う。伊作が呪を唱えているそばから、そんなことは無駄だとばかりに伊作の周囲の草木が枯れてゆく。伊作は三郎を睨みつけた。
「この村がお前に何をしたのだ」
「知ったことかよ。お前こそ、余所者だろう、北の匂いがするわ。この村に何の義理があるか知らぬが俺を放しや」
「おい狐、ひょっとしてお前の母親は数年前に退治られた玉藻御前ではないかね」
くわ、と三郎が怒りに口を開いた。ぶわりと体中の毛が逆立つ。三郎の前で玉藻の話は禁句だった。三郎が遠吠えすると、遠くでごろ、と雷がした。伊作が振り返る。
「む、いかん、鳴る神か。鵺が来る」
鵺は雷神で、鵺の参上するときは必ず雷が鳴るといわれている。三郎は表情ひとつ変えてはおらなんだが、内心では伊作以上に焦っていた。いかん、これでは間に合わん。鵺との約束が果たせぬ。
「おい坊主、貴様京の鵺退治を見に行くのだろ。ここにいて俺にかかずらっていてよいのか」
「お前を放して村人を喰わせるわけにいかん」
「ふん、ではお前一生俺の前で呪でも唱えているつもりか。阿呆が、お前程度の力で俺を見くびるでないよ」
確かに、気休めの封呪措置だとは伊作も気づいてはいた。死んだものならともかく、生きたあやかし封じなど、伊作の本職ではないのだ。伊作が苦々しい顔をすると、三郎狐はふふんと笑って、「お前を喰らう代わりに俺を放さぬか」と言った。伊作は首を振る。
「いやさ、私よりこの村の安全を約束してくれ」
三郎狐は酷薄そうな瞳を細めて伊作を見つめた。馬鹿な人間にかかずりあったと面倒な気持ちが湧いて出る。しかしやがて、よかろう、と頷いた。伊作は確かだな、と疑って簡単に呪を解くことをしない。三郎はしばし逡巡して、
「確約が欲しいのなら俺の尾を一本やろう」
と言った。伊作は驚いた。九尾の狐にとって、尾は魔力だ。「いいのか」と問うと「くどいわ、早くしろ」と返事。伊作は尾の一本を掴むと、根元から懐に忍ばせた短剣で切り落としてしまった。坊主がそんなものを持つなどと、どうもこれは怪しい男であると三郎は思ったが、ともかくも急がねばなるまい。伊作が縄を外すと、京に向かって一目散に駆け出した。冷たい夕の風が尾をなくした尻に酷く染みたが、そんなものに気をとられている暇もなかった。伊作は脱兎のごとく駆け出していった狐を見つめて、「こりゃあますますきな臭いぞ」と鼻をひくひくと動かして曇天を見上げた。ごろごろごろと音はどんどん近くなっている。びかびかと青い光が天を裂き始めた。
「いかんいかん、私も急がなけりゃあ」
立ち上がった途端、懐からころりと石が飛び出して、伊作は慌てて拾い上げた。その石は封魔の札で巻かれている。伊作はそれを両の手で大切に握り締めると、「玉藻御前、貴女の息子だ。見たかい、」と優しく語りかけた。


三郎は京へ行く途中に百鬼夜行をいくつも見た。鵺の参上で、京にいくつも門が開かれ、道が出来ているのだ。馬鹿な人間ども、鵺一匹を殺すために、それだけのあやかしを京に通すことになると思う。三郎は内心で嘲笑う。鵺の死体に化けて宮中まで運び込まれたら、そのまま宮中の人間総て屠ってしまおうかと邪悪なことを考える。ひたすら走っていたら、申し、と声をかけられた。申し、申し。それは魂震わすあやかしの声だった。妖怪の中でも位の高い三郎狐に、気安く話しかけられるものなどほとんどない。無礼者はだれぞ、と振り向いて、三郎は目の玉が零れ落ちてしまわんばかりに眼を見開いた。そこに立っているのは雷蔵だった。
青白い顔をして、青白い骸骨を背負って、三郎を呼び止めている。三郎は愕然として、岩で頭を殴りつけられたような衝撃を受けた。息を吸ったまま吐き出すことが出来なかった。雷蔵が、妖怪になってしまっている。俺の知らぬうちに、雷蔵は、死んだのだ。雷蔵は、「どちらへいったらよいのですか」と虚ろに尋ねている。身を揺らすたび骨が鳴った。狂骨だ。世に未練があると、たまにこうして成仏叶わずあやかしとなってしまう魂がある。
三郎は身動きすること叶わず、ぱたぱたと涙を零した。
「雷蔵、」と名を呼ぶと、雷蔵がよくわからぬふうに首を傾げる。
「それはなんですか」
「雷蔵はお前だよ、雷蔵。俺のことはわかるか、三郎だ、お前が助けた狐の三郎だよ」
雷蔵はぼんやり立っている。「三郎、聞いたことがあるなあ、とてもよいものにつけた名だったような・・・」
三郎が瞬きするたび、ぽたりぽたりと涙が零れた。ごうん、と鳴る神が頭上で騒いでいる。ああ、鵺が呼んでいる。行かなければ。しかし走り方も忘れてしまった。雷蔵は草臥れた形で立っている。
「申し、私はどこへ行ったらよいのです」


食満は天に現れた異形の生き物を見上げた。それは大きく、吠えるたびに地が震え、見守る人々は幾人も失神してしまうほどであった。しかし、食満は負ける気がしなかった。胸には昨夜の甘い思い出が居座っている。きっときっと、俺はこのおぞましい妖怪を倒して蔵人の頭になるのだ。そうすれば八左ヱ門もどん何か喜ぶだろう。食満はきりきりと弓を引いた。それはいつかに八左ヱ門から貰った破魔の弓だった。大きな弓で引くのにはひどく力が必要だ。食満はしっかり狙いを定めて、射た。びいいいいいん、と弦の震えが長く宮中に響いた。渦巻く灰色の雷雲が裂かれ、弓は天に昇っていく。
「あ、」
と食満は息を呑んだ。少し手先がぶれてしまったらしい、弓の方向が外れた。しまった、と思い慌ててもう一本の矢を用意する。だが、弓は見事鵺に当たった。食満は瞳を見開いた。そんなはずはない、と思った。
ヒエーッと鵺は一度大きく鳴くと、そのままどさりと紫宸殿の前の庭に落ちた。化け物の首を駆ろうと近寄った警備の者たちを、食満は、止めた。
「心無いことをするな!妖怪といえ、これ以上辱めることは俺が許さん」
食満はゆっくりと鵺に近寄った。そっと手を伸ばしても、鵺は荒い息を吐くばかりで抗うことはなかった。
「お前、自分から矢に当たったな」
食満は、鵺の瞳が見たこともないほどあたたかいことに驚いて慌てて顔を覗き込んだ。
「鵺、」と声をかけたが、鵺はそっと瞳を閉じたままもう動くことはなかった。
「食満様!おめでとうございまする!」
口々に叫んで宮中にいたものみんなが駆け寄る。食満は呆然としたままだ。自分は、とんでもないことをしてしまったのではないかという嫌な後悔が胸に渦巻いていた。あんな優しい瞳をしたものを、射殺してしまった。
「おめでとう、留三郎」
ふいに背後で声がした。八左ヱ門の声だった。食満は振り返って、眉を潜めた。立っていたのは八左ヱ門だが、雰囲気の違うようだった。酷薄そうな表情で、ぱちぱちと手を打つ。
「君は見事鵺を退治たのだ」
「貴様は誰だ」
「俺は、俺はそこに倒れている鵺だよ、留三郎」
にたり、と八左ヱ門の容姿をしたものが笑う。雷は晴れて、真白い月明かりが京を照らしていた。鵺が鳴く夜はもはや永劫こないだろう。
「お前が俺を殺したのだ」
「嘘だ」
食満は吐き捨てるように呟いたが、胸の痛みがそれを否定しきれないでいた。どうして鵺は、自ら矢に当たりに行ったのだ。どうして鵺は、優しい瞳で死んだのだ。どうして八左ヱ門は昨日のうちに逢いに来たのだ。どうして、今日では遅いといったのだ。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
食満の懊悩を、眼の前の八左ヱ門がにたにたと見つめている。その尻に、尾が生えてくるのを食満は見た。八つの金色の毛並みをした狐の尾だった。
「お前が八左ヱ門を殺したのよ、馬鹿者が」
吐き捨てるように呟いて、青年はひらりと身を翻すと、紫宸殿から去っていった。
数日後、食満は帝から獅子王という名の弓をおし頂いた。
そしてその数日後、食満はひとりひっそりと京から姿を消す。
秋も盛りを過ぎ、地に落ちた花梨の実は甘く腐りはて、誰も伝えない過去の思い出をひっそりと辺りに匂わせている。

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