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人でなしの恋④

妖怪パロ。

---------- キリトリ -----------

さて、少し噺は前に遡る。雷蔵である。
三月ほど前から、三郎狐は雷蔵とまったく会えていなかった。小屋に行っても、いっこうに雷蔵が出てこないのである。気配はある。しかし、天気もいいのに真昼間から雨戸まで締め切って錠もかけて、出て来ようとしないのである。三郎が遠吠えしても、何の音沙汰も無い。三郎はなんだか嫌な予感がして、とうとう小屋の錠を喰いちぎって勝手に中へと入っていった。裏口からそっと中を覗き込むと、零れた日の光に反応して、中に居た雷蔵がびくりと肩を揺らすのがわかった。なんと大仰に驚くのだろう、と三郎もびっくりしてしまう。ひ、と咽喉を鳴らして酷く怯えたような様子でこちらを見ている。じりじりと何かから逃げるように壁際に身を寄せるのがなんとも哀れだった。
三郎が正体をわからせるために、コン、とひと鳴きすると、雷蔵はああ、と溜息をついた。ひどく安堵した様子で、「三郎だね、なんだ、お前、餌をやらなかったから腹をすかせて入ってきてしまったのか。まったく、仕様が無いね」と三郎を手招いた。そうして擦り寄ってきた三郎を抱きしめると、
「ごめんね、今、家には何も無いんだよ」
と豊かで美しい毛並みに顔を埋めて言った。三郎は雷蔵の腕の細すぎることにびっくりした。何日食べていないのだろう、身体はほとんど骨と皮だけといってもよかった。水瓶の水からはすえたような匂いがしていた。腐っているのだ。水も飲んでいないのか。木の実でも持ってくるのだった。三郎は酷く後悔して、慌てて何か探してこようと身を翻した。それを、雷蔵が抱きとめた。弱々しい、ほとんど力の入っていない腕で覆いかぶさるように三郎を引き止めた。
「三郎、行かないで!」雷蔵は三郎のぬくもりにそっと瞳を閉じた。「お願いだよ、どこにも行かないで」
三郎は仕方なしにその場に伏せた。隣で雷蔵がうっとりと瞳を閉じる。そのうち眠ってしまうように思われた。とにかくひどく衰弱をしているようだ、食べ物を探してくるより、医者に見せたがいいかも知れぬ。雷蔵が眠ってしまったら、負ぶって町へ出ようか。
雷蔵に抱きしめられているうちに、三郎はあることに気がついた。雷蔵の肌の匂いに別の人間の匂いが混じっている。三郎は鼻を寄せてよくよく匂いを嗅いだ。そうして、それが人間の男の匂いであるとわかったとき、怒りに我を忘れるかと思った。ぶわ、と勝手に力が放出されて尾が九つ総て出た。ぐるる、と凶悪そうに咽喉を鳴らして、口を開ければ、雷蔵を我が物にした男を食い破らんとでも言わんばかりに唾液が糸を引くのだった。三郎は歯肉を見せつけて小屋から飛び出した。雷蔵を抱いた男が居る。雷蔵も娘だ、そのうち誰かのものになる。そんな当たり前のことを、聡い妖狐には考え付かなかった。雷蔵は誰のものにもせぬ、と端から決めてかかっていた。いや、仮に雷蔵のことに関して冷静な思考を手に入れていたとしても、やはり同じように三郎は怒ったろう。何故なら雷蔵があそこまで弱ってしまう理由が無いからだった。許さぬ、許さぬ・・・。
三郎は雷蔵から嗅いだ匂いを頼りに、どこまでも駆けた。そのうち、畑を耕している一人の男を見つけた。雷蔵の肌に染み付いた男の匂いと同じだった。それは、雷蔵に言い寄っていた男でもあったのだが、三郎はそんなことは知らない。まっすぐに駆けて、問答無用で咽喉笛めがけて喰らいついた。鮮血が迸り、まわりの人間が悲鳴を上げた。ガツガツと三郎狐は男を屠った。不味い肉は、喰いちぎるたび吐き出した。くさい肉だ、こんなものが、あれを穢したのか。許せぬ、許せぬ。
男が絶命して、およそ見るも無残な肉塊に変わった頃、三郎はようやく血だらけの鼻先を上に向けた。村人たちが、怯えた視線で三郎を見ていた。何人かは、手を合わせてしきりに破魔の呪文を唱えている。
「九尾の狐じゃあ」
「お狐さまじゃあ、なしてこげな村に」
「惣吉は何か罰当たりなことでもしでかしたかあ!」
三郎が食い殺した男は惣吉といったらしかった。三郎狐は、村人全員そのまま屠ってやろうかと、滾る血のまま考えていた。自分を取り囲む人の垣に向かって駆ける。わああ、と村人がもんどりうって逃げるなかで、ひとりだけ立ち去らぬものがあった。それは、袈裟を来て大きな数珠を首から下げた坊主だった。坊主はそのまま向かってくる三郎狐に向かって九字を切った。
三郎狐は見えぬ鎖に縛られて動けずに、そのままぱたりと其処に倒れこんだ。
村人たちが坊主を見遣る。
「あんた誰だえ」
呆然と尋ねる村人に、坊主は深く被った編み笠を少し上げた。整った美貌が現れた。随分と柔和な印象を持たせる顔だった。
「善法寺伊作といいます。京の鵺退治を見に行くところだったのですが、いやはや、とんでもないところに出くわしてしまった」
そういって、足元の三郎狐を見遣る。三郎狐は苦悶の表情で転がっていた。
京の鵺退治は、明日である。
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