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人でなしの恋③

妖怪パロ。

---------- キリトリ -----------

帝が謎の熱病で危篤状態にある、という。京中の噂だった。蔵人として宮中勤めをしている食満にとって、帝の生死は非常に重要な話題である。今の華村天皇が亡くなれば、次に跡を継ぐのは弟の玲泉宮である。彼のシンパは食満の氏とは対立関係にあるから、政権交代がされれば食満は京を追い出されてしまうだろう。
ある日のこと、食満は蔵人の頭に呼ばれて其処で驚くべき話を持ちかけられた。
「鵺、ですか」
「そう、陰陽師が、帝の御病気は近頃毎夜のように木霊する鵺の鳴き声が原因だというのだ」
「ははあ、」
「それを退治してみよ、とのお上のお達しである」
食満はぼんやりしている。確かに、ここ最近は毎夜鵺の鳴き声が京に響いて人々を怖がらせている。鵺の鳴き声は人の霊魂を吸い取っていくというから、天皇の熱病もそれが原因と理由付けられなくも無い。しかし、食満にはどうしてもピンと来なかったのだ。帝の御病気は、心無いものの呪詛ではなかろうかと、もうひとつの噂か宮中でまことさやかに囁かれている。そちらのほうが、
(らしいな)
と思わずにはいられないのである。どこかとぼけたような食満の様子に、蔵人の頭はひとつ呆れたような息を吐いて、「これはお前を弓の名人と見込んでのお上直々のご命令である」と声高に、宣告した。それで食満は慌てて姿勢を正して蔵人の頭に向き合った。
「いつかに、お前が弓の弦を弾いて、その響きで殿中の百鬼夜行を退けたことがあったな」
それはいつぞやに八左ヱ門が入れ知恵をしてくれたものである。お前に破魔の弓をくれてやろう、これを一度、なるべく長く爪弾くのだ。音が響いている間は決して妖怪どもはお前のそばに近寄らぬだろうよ。
「帝はそのときのことを深く感謝して、いまだ覚えておられるのだ。有難いと思えよ」
「はっ」
「受けてくれるな」
「左様でございます」
食満が両の拳を板の間につき、深く平伏すると、蔵人の頭は満足げに「これに成功すれば、蔵人の頭の地位は私の次はお前だ、食満」と呟いた。食満は驚きに身体を揺らした。思わず顔を上げて蔵人の頭を見上げると、彼は恭しげに一度頷いた。
「出世の機会と思って気張れよ」
食満は「ははっ」と勢い込んで返事し、頭を下げ、今度はずっと頭を上げなかった。


その晩はああ、困った、と鵺が溜息を吐くこと甚だしかった。三郎狐は、そんなものは放っておけ、とけんもほろろに言った。
「お前が毎晩鳴くのは、西で戦をやっているからだ。帝の熱病など、知ったことじゃないのだろ、放っておけ」
「そんな、そんなわけにはいかん、俺を退治ることが出来ずば、留三郎はえらい恥をかいてしまう。蔵人の頭にも成れはせぬ。蔵人の頭はな、留三郎の積年の夢なのだ」
酷く焦った口調で鵺がそう零すのを聞き届けた三郎狐は、声高に、「大馬鹿者!」とぴしゃりと叱り付けた。
「お前は阿呆か、たかが人間一匹の恥だの名誉だのと、そんなものとお前の命ひとつを比較して迷うでないわ!放っておけ、」
最後は地を這うような声だった。鵺は猿の真っ赤な顔面を真っ青にして、やはり困り果てた表情をしている。今日の昼時、留三郎の屋敷へ赴いたら、彼は満面の笑みで、「おい、蔵人の頭になれるぞ!その機会を得た!」と随分と嬉しそうにはしゃいで八左ヱ門の腕を握った。
「見ておれ、八、俺はお前のために見事鵺を退治てやろうとも!」
八左ヱ門は綺麗に笑いかけてやることが出来なんだ。まさか、本当に退治られてやるわけにも行くまい。しかし、この嬉しそうな様はどうか。失敗すればきっとお咎めが来るのだろう。
どうしよう、困った。ああ、それにしても、困った。
鵺はその日一晩中溜息をついて、まんじりともせぬ夜を過ごした。朝を迎えてもまだしきりと悩んでいるようで、鵺の表情はいっこうに晴れることがなかった。三郎狐は人間は大嫌いだが、鵺のことは認めている。いささか鵺のことが可愛そうにも思えて、知恵を貸してやった。三郎狐は妖怪の中でも天狗と猫又と並んで知恵があるといわれている。
「鵺よ、ならばこうしてはどうか」
鵺は、三郎狐が知恵を貸してくれることを最初から期待していたに違いない、いつもならすぐにでも頼み込むところを、今回に限っては代の人間嫌いに遠慮して言い出せずにいたのだろう。嬉しそうな表情で三郎狐に耳を寄越した。
「どうする、」
「退治された振りでもしてやったらどうか、せいぜい哀れな悲鳴でも上げてやるのだ。もういっそのこと、その悲鳴で帝も殺してしまってもよいな」
「茶化すな、・・・しかし、死体が残らぬのは不味かろう」
「人間にそこまでしてやる義理はなかろう」
三郎狐は酷薄そうにコンとひと鳴きした。鵺はちろちろと三郎狐を見遣る。
「なんだ、」
「いやさ、お前は変化の達人であったよなあと思って」
「俺は嫌だぞ」
「一生の頼みだ」
「馬鹿な、人間ごときに一生ぶんの頼みなんかするんじゃないよ。俺は絶対に嫌だ」
「九尾の、頼む、この通りだ」
鵺は蛇で出来た尾をだらりと下げて頭を垂れて頼み込んだ。三郎狐は嫌な顔をした。三郎狐は冷酷でものの好悪が激しい。たいていは大嫌いなもののなかで、数少ない好きなものに対しては、途端に弱くなる。三郎狐はついに、
「一晩ばかりだぞ、せいぜいお前の死体でも真似してやったらよいのだろ!」
とやけくそ気味に叫んだ。鵺はありがたいありがたいと何度も頷く。
「まったく、礼ははずめよ!」
と甲高く鳴く姿さえ鵺には可愛らしく見える。結局お前は優しいのだ、と言おうとしたが、そんなことを言えば臍を曲げて口を利いてくれなくなることが目に見えたので、黙ってにこにこと微笑んだ。


 

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