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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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風下にエンドをとれ

竹谷・タカ丸・久々知・雷蔵女体化でテニスもの。
途中で始まり途中で終わる。ただの萌え散らかし。

*五年と四年はそれぞれ違う学校の女子テニス部員です。
*こへたけ風味もあり?


何が楽しいのか、と聞かれても今はもうよくわからない。練習は辛いし、負ければ悔しいは情けないわで堪えきれないくらいだし、勝ったら勝ったでまた次の試合を思って戦慄する。試合は闘いだから、そこには常に緊張感がある。緊張し続ける心はいつだって不安と恐怖がない交ぜで、そこに安穏はない。だから、何が楽しいのかと考えてみてもすぐに答えは出せない。
けれど、やっぱり、自分のところにボールが打ち込まれてくると、ハチは言いようのない高揚を覚える。仕留めて見せる、と思う。速い球が、難しい角度で迫ってくるほど、面白い、と思う。勝敗を忘れ去った先に、ただ自分の技術と運命をフルに発揮して迫りくるものに臨む、その瞬間にたぶん、ハチをひきつける一番の”悦び”がある。
タカ丸の打ち込んできた球は、速かった。球自体に回転がかかっているのに、軌道がぶれない。これが地面に突っ込むと、途端に思わぬ軌道にはねっかえるのだと久々知は言った。ハチは息を呑んで、タカ丸の球がネットを越え、地面に叩き込まれるのを見届ける。ラケットを球を救うようなかたちで握った。タカ丸の球は、必ず高くバウンドする。軌道を外しても、高く上がっている時間のロスが、ハチにチャンスをくれる。瞬発力と脚力だけ見れば、久々知よりハチのほうがその能力に優れている。必ず返す、とハチは球を睨んだ。これでおしまいでもいい。一生勝てなくてもいい。夢が夢のまま終わったっていい。久々知の返せない球を、おれが返す!それがハチの自慢にもならないちっぽけな意地とプライドだった。
球が跳ねた。
球は軌道を変え、ハチの懐に飛び込んできた。ハチは慌てて身体を退けると、そのまま身体を捻るようにして球を拾い上げた。ガッ、とラケットを握る腕に重い衝撃が伝わった。想像以上に球が重い。一度跳ねたくせに、回転数がほとんど減っていない。さすが、久々知がてこずるプレイヤーなだけある。白くて細い身体をしているくせに、想像以上のパワープレイヤーだった。
「・・・ッ、くそッ・・・!」
ハチは肩に鋭い痛みを覚えた。ぶれる腕に慌てて左手を添える。両腕でラケットを握り返して、思いっきり相手コートへ球を叩き返した。低い位置で打ち返してしまってひやひやしたが、ネットに引っかかることなく向こうのコートに打ち込むことが出来て、ハチは思わず溜息をついた。タカ丸の必殺技が打ち返されたというんで、観客席からは大歓声と怒号が聞こえる。だがそのすべてはハチの耳には届いていなかった。ハチは九々知はどんな表情をしているのだろう、とそれを知りたくなったが、まさか強敵から視線を外すわけにもいかずタカ丸に向き直った。ハチの返した球は悪球だったが、タカ丸はなんとかそれを掬い上げると、ハチに返した。それは決して取れない球ではなかったが、先ほどの返球で完璧に肩を壊してしまったハチにはもう打ち返すことは叶わなかった。タカ丸の球を受けとめきれず、ハチの腕からラケットが飛んだ。ラケットがコートを叩く音がやけに大きく響いて、ハチは肩を押さえてその場に膝を着いた。審判の吹くホイッスルの音が甲高く空に吸い込まれる。
終わった、とハチは思った。ああ、おれのテニスは終わってしまった。
(今度無理したら、それが最後だぞ)
食満の辛い宣告が脳裏に響いた。
(一度壊れた肩はもう元には戻らない。テニスで食ってくのは、お前ではムリだ)
大好きなテニスが一生できればいいと思った。中学に上がって、九々知と出会って、天才は確かにいるのだと絶望のなかで認識した。だったらせめて努力で九々知に並ぶんだと、がむしゃらに練習に打ち込んだ。九々知のがんばりのその二倍三倍の努力を己に科した。そうしてようやく立てた全国大会のコートなのに、こんなところで選手生命をたたれるなんて。しかもそれが、肩の使いすぎが原因というのだから、笑ってしまうではないか。練習し過ぎたんだ、と食満に言われたとき、ハチはどんな表情でそれを聞けばいいか分からなかった。泣き笑いの顔になってしまった。悪い冗談だと思った。最初ッから、全国で負けることが自分の最高のゴールだったなんて。試合終了のホイッスルが鳴った。
タカ丸がネット越しに歩み寄ってきた。ハチは立ち上がると、自分もネットに近づいた。タカ丸の美しい形をした指が、ハチのなんどもマメを潰した手のひらをそっと握った。
「ありがとうございました」
と深く頭を下げられて、ハチもにっこりと微笑んで、「楽しかったです、ありがとうございました」と頭を下げた。
それで、ハチの最後の試合は終わった。
コートをでると出口に九々知が立っていて、ハチを睨んでいた。隣で雷蔵が「いい試合だったね」と笑いかけると、九々知が一言「悔しい」と言った。ハチにとってはそれがなにより嬉しい一言だった。
「斉藤は私のライバルだぞ!ハチにはやらん!」
「すげー相手だった。兵助、負けるなよ」
「おう」
控え室に戻るために長いコンクリートの階段を下りていく途中に、壁にもたれるようにして鉢屋が立ってた。
「なんだよ、愛しの雷蔵の試合がはじまちゃうぞ」
茶化して笑うと、鉢屋は無言でハチの肩に自分の上着を羽織らせた。それから、ハチの左手首をぎゅっと掴んで、無言で医務室まで引っ張っろうとした。ハチは慌てて身体を引く。
「ちょッ・・・三郎、いい!自分で行くからッ・・・」
「お前、馬鹿か!肩壊れかけてるのにどうしてあんな球打ち返した!無理して打ち返さなくたって、点は稼げたろ!別の方法で、勝つ方法を探ることだってできただろ!」
「だって、それで、自分の方誤魔化しながら試合続けたって、意味がないじゃんか。どうせいつかは俺の肩は壊れる。カウントダウンをじわじわ伸ばしてるだけだって、そんなのちっとも救いにならない。だったらいっそ、ちッさなことでいい、兵助に勝ってみたかったんだよ。見たか、三郎、おれ、兵助より先にタカ丸の殺人レシーブを返したんだぜ!すごいだろ!」
にかっ、と子どものように無邪気な笑みを向けるハチに、三郎はなおも何か言いたげな表情をしたが、結局はその言葉を飲み込んだ。それをハチに与えるのは三郎ではなく別の男の役目だった。
「控え室に食満さん呼んであるから、肩見てもらえ。すぐ見てもらえ」
「留兄を?サンキュ、三郎」
ハチは笑顔で手を振って控え室に向かって階段を駆け下りていく。その背中を見送って、鉢屋は飲み込んでいた溜息を長く吐き出した。
控え室のベンチには食満が座っていた。
「留兄、これないつってたのに。大学のテストはよかったの?」
「ああ」
「おれ、負けちゃったよ。せっかく練習付き合ってくれたのに、ごめんな」
「ああ」
「肩もだめんなっちゃった」
「・・・」
ハチはやっぱり笑顔だった。食満に向かい合うようにベンチに腰掛けると、三郎のかけた長袖の上着を脱いだ。右肩は紫色に変色し、腫れ上がっていた。食満は「医務室と女子更衣室どっちがいい、」と尋ねた。ハチは更衣室、と短く答える。「じゃ、行くぞ」と立ち上がってすたすたと女子更衣室へ歩き始めてしまう。ハチはその後を追った。控え室から出たら、ちょうど試合を終えたばかりの七松が待ち構えていた。
「あ、七松先輩、お疲れさまです」
「お前もな。いい試合だったか、」
ハチはにこにこと微笑んだまま、はい、と元気よく頷く。七松も満足そうに頷いた。
「そりゃよかったな!」
「先輩、勝ちました?」
「ああ」
「じゃあ、決勝進出決定ですね、おめでとうございます」
「ああ」
ハチが女子更衣室をあけると、なかには誰もいなかった。「いいのかなあ」と苦笑しながら、ハチはなかに食満を招き入れる。七松のほうに視線を向けると、彼は、「俺は飲み物でも買ってきてやるよ」と更衣室には入らなかった。更衣室のベンチに腰掛けて、腫れた肩に蒸しタオルを載せると、食満は二の腕の辺りから、丁寧にマッサージし始めた。
「留兄、おれのさっきの試合、いい試合だったと思う?」
「ああ。今までで最高の試合だった」
「あは、嬉しー」
なおも笑顔を浮かべるハチに、食満は静かに名前を呼んでつぶやいた。
「ハチ、ここにはもう誰もいないぞ。だから笑わなくていい」
はた、とハチの表情が凍った。へたくそな笑顔はもう消えていた。
「がんばったな、」
と食満があやすように頭をぽんぽんと優しく叩いた。それで、ハチはもう耐え切れないと思って子どものように声をあげて号泣した。何十年ぶりの号泣だった。わあわあ、と泣いている間、ずっと食満にしがみ付いていた。悔しさやふがいなさや安堵や怒りや悲しみや絶望や空虚や。もろもろの強い感情に、なにかにしがみついていないと体がばらばらにでもなってしまいそうだった。ハチの人生は本当に、テニスばっかりだったのだな、とハチは泣きながらしみじみ思った。明日から、何のために生きていけばいいのだろう。新しい希望が見つかるのだろうか。見つかったらいいな。それで、また、駄目でも、いけるとこまでがんばりたいな。
更衣室の外では、誰も入ってこないようドアにもたれて、七松がハチの泣き声を背中で聞いていた。悲しみを共有させてくれない少女の強さを、寂しく思いながら。
ホイッスルの音が鳴った。コートの上ではまた、新しい戦いが始まっている。

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