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よいこわるいこふつうのこ

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男の子女の子

雷蔵女体化。途中で終わるけど特に続きは考えていない。
天使な雷蔵ではないので注意。


「雷蔵知ってる、いとこ同士ってね、結婚できるんだよ」
「ふーん」
まるで興味ないような返事を零して、雷蔵は頬杖ついて頭の中で今度応募するエッセイの内容について考えている。テーマ「香り」かあ。何について書こうかなあ。好きな匂いのことなんて、ありふれちゃってて選考なんて絶対通らないだろうしなあ。
雷蔵の尊敬する中在家長次先輩から、エッセイに応募してみないかと誘われた。図書委員長である先輩は強面で無口で無愛想だから、一見すると堅気の男にはとても見えない迫力があるけれど、実際のところはかなりの文章家だ。何度かコンクールにも入賞して、高校生ながら時々雑誌とかに寄稿していたりするらしい。雷蔵は、これまでも何度か誘われて文章を書いているけれど、賞に引っかかったことは一度もない。
「雷蔵、あんた食事中にものを考えるのはやめなさい。みっともないわねえ」
「春子ママさん、雷蔵は今度応募するエッセイのことを考えてるんだよ、許してやってよ」
「まあ、あんたまたコンクールに応募するの。こりないわねえ、文才ないんだから早く諦めちゃいなさい」
「雷蔵にひどいこといわないでよ、春子さん。雷蔵は文才あるよ。俺、雷蔵の文章の第一号ファンだもん」
「まーあ、サブちゃんのほうが文才あるわよ、決まってるじゃない。前に応募したコンクールでがっちり入賞してたじゃないの」
三郎は嫌な顔をした。あのときは、雷蔵に誘われて一緒に応募したのだ。雷蔵とおんなじことが出来るのが嬉しくて何も考えず、ちょいちょいと手慰みに適当なことを書いて応募したら、何故だかしっかり入賞してしまったのだ。雷蔵のは、もちろん選ばれなかった。雷蔵はおめでとうと言ってくれたけれど、三郎は二度とやらないと思った。
三郎は雷蔵のいとこだ。ふたりを知らない人は、初めて見たとき、必ず二人を双子だと勘違いする。それは、雷蔵と三郎が一卵性双生児よりさらに酷似した容姿の持ち主だったからだった。今でさえ男女の性差から区別がつくようになっているものの、昔はまったく区別がつかないほどそっくりだった。
雷蔵は三郎より少しやんちゃだったから、かわいいものが大好きな春子ママさんが買ってきたふわふわレースのワンピースを三郎に着せて、自分は三郎のシャツと短パンを着て、勝手に近所の悪がき男子たちと遊びに行っていた。夏休みが終わる頃には、「三郎、ぼくの宿題もやって」なんて笑顔で言い放って、漢字ドリルとか夏の友とか、面倒くさい宿題は全部三郎に押し付けていた。雷蔵は、あんまり男の子とばかり遊ぶものだから、自分のことを僕とか俺といって、よく春子ママさんと冬馬パパさんから叱られていた。そのたびに雷蔵は泣いて泣いて、泣きじゃくって、当時彼女の逃げ場所だった三郎の部屋の押入れの中に閉じこもった。押入れからひいひいと泣き声が聞こえてくるのがあんまり居た堪れなくって、三郎はそのたびに慰めた。
「泣かないで、ね、雷ちゃん。僕が女の子になってあげる。だから雷ちゃんは男になってもいいんだよ。僕、おじさんとおばさんにそういってあげるね。僕が代わりに女の子になりますから、雷ちゃんを怒らないでくださいって頼んであげるね」
もちろん実際にとりかえばや物語が幕開けるでもなく、雷蔵は女の子として立派に育った。今では憧れの先輩なんてものまでいる始末。三郎はまことさやかにそんなところまで女の子にならなくていいのにと嘯いている。
「雷蔵、ねえ、夏休みふたりで旅行に行こうよ」
「うーん」
隣でけなげにさえずる三郎が疎ましいのか、雷蔵は白米を咀嚼しながら生返事。知らぬ存ぜぬとでも言った様子でテレビのチャンネルを変えている。
「最近クイズ番組ばっか流れてる気がするよね」
「うん、あれだよね、クイズペンタゴンが視聴率取ったから」
「もういい加減飽きるよね」
「そうね。ねえ、雷蔵、沖縄とか、言ってみたいと思わない。俺さあ、今日すごい格安ツアー見つけてね、」
ほら、ほら、と勢い込んでパンフレットを見せつけるも、雷蔵はそれを受け取ると眼も通さずにダイニングテーブルにぱさりと置く。
「三郎もう家帰ったら?」
三郎の家は隣だ。三郎の両親は共働きだから、晩ご飯はいつも雷蔵のところへ食べにくるのだった。
「何でそんなひどいこというの。俺としゃべるの嫌なの」
「女々しいこといわないでよ、気持ち悪いなあ」
「雷蔵の嫌いなところがあったら俺直すからあ!嫌いにならないで」
雷蔵はため息をついてソファに倒れこむ。頭が、隣に座る三郎の腿のあたりに落ちた。その愛おしい重みを、三郎はゆっくりと指で触れる。わっさりとふくらみのあるヘアを指で梳いた。
「あーあ、私じゃない誰かになりたいなあ!」
雷蔵が吐き捨てるように言う。三郎は雷蔵の髪を撫でて機嫌がいいのか、うっとりしながら問うた。
「なんかあったの」
「なんもないよ。なんもないからじゃん」
「俺、そういう雷蔵のこと好きだよ。だから気にしなくていいじゃん」
「三郎さあ、いい加減あたし離れしたら?」
雷蔵がくるりと上を向いた。見下ろす三郎と眼が合った。三郎はぱちくりと大きな瞳をしきりに瞬かせている。雷蔵が三郎の鼻をつまむ。
「めちゃくちゃもててるくせに。いつまで雷蔵雷蔵って言ってるの。あたししってるんだからね、この間、3組の超美人のミユキちゃんに告白されたでしょう。一緒に日曜日デートしよって言ったら、日曜は雷蔵の誕生日だから駄目だって言ったんでしょ。ばっかじゃないの、あたしの誕生日なんかほっときゃいいじゃん。告白断るダシにあたしを利用しないでよね」
「なんで雷蔵がンなこと知ってるの。森下ミユキがわざわざ言いにきたの」
「真相を確かめに来ただけでしょ」
「何だあの女、うぜえな」
三郎がぎりりと歯軋りする。急に視線が鋭くなって、雷蔵は呆れて三郎の頬を叩いた。
「そんなことぐらいで怒るなよ。ミユキちゃんは三郎が本気で好きなんだから仕方ないじゃん」
「だって森下のせいで雷蔵が嫌な思いしたじゃん」
「嫌な思いってほどでもないってば」
雷蔵はむくりと起き上がると、「お風呂入ってくる、」と言い捨てて、下のスウェットを脱ぎ捨ててTシャツ一枚ですたすたと風呂場まで行ってしまった。雷蔵の投げ捨てたスウェットを頭から被った三郎は真っ赤になってそれを畳んで風呂場までもって行った。
「雷蔵、人前であんなかっこうするな!ばか!」
「三郎だから平気じゃん」
「俺だとなんで平気なんだ!」
「だって三郎じゃん」
からからと笑い声が聞こえて、三郎はもう一度「馬鹿!」と怒鳴って脱衣所から出て行った。
 
 
「三郎知ってる、いとこ同士って結婚できるんだって」
最初に言ったのはむしろ雷蔵のほうからだったのだ。三郎はそのとき、雷蔵の隣で扇風機に当たってタオルケットを被ってうとうとしていた。昼寝の時間が雷蔵は大嫌いで、なんとか三郎に喋りかけては彼が寝てしまうのを防いで、暇をつぶそうとしていた。
「ふうん。じゃあ僕たち結婚するの」
「結婚って、一緒に住むことでしょ。今とそんなに変わらないよねえ」
「僕たちいっつも一緒だもんね」
「三郎ぼくと結婚したい?」
「どっちでもいい。雷ちゃんは?」
「ぼくもどっちでもいい」
雷蔵が中学のセーラー服を着たとき、三郎は似合うよと最後まで言わなかった。似合うと思ったけれど、絶対に言わなかった。三郎は不機嫌だった。中学三年生になって雷蔵が、スカートの丈を詰めたいといったときも、頭の隅ではそんものどうだっていいとわかっていながらも、自分でもおかしなくらい必死になって反対した。膝上は校則違反じゃん、だいたい、雷蔵に短い丈なんか似合わないよ!三郎は雷蔵が女の子らしく、綺麗に、可愛くなっていくことに関してはなんでも反対した。理由は自分でもわからなかった。ただ、無性にもやもやして胸が詰まって駄目なのだ。雷蔵の友達とは三郎も何とか友達になろうとした。何人かは三郎に惚れてしまって、関係が崩れて、ひどく泥沼になってしまった。うまくいったのは久々知と竹谷ぐらいだった。
雷蔵は成長するにつれて、少しずつ、三郎を疎ましげに扱うようになっていった。一方で、三郎のほうは、成長するごとにどんどんべたべたと雷蔵に構うようになっていた。
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