雷蔵とタカ丸、女体化。でもふたりは不在。
ボリュームたっぷりのカツ丼を口いっぱいに頬張りながら、もぎゅもぎゅと久々知は話す。
「あーあ・・・どうして断られちまったのかなあ」
先ほどから出る言葉といえば、情けないような愚痴ばかりだ。三郎は向かいでおかわり無料の千切りキャベツの追加を店員さんに頼んでいる。それから、「や、断られるだろ、ふつう」と言った。
「年頃の女にカツ丼が美味い大食いの店がありますから一緒に行きませんか、って、来るはずないだろ」
先日、久々知は年上の想い人斎藤タカ丸に、このカツ丼屋を紹介して見事玉砕したと言うわけだ。
「んと、今ダイエット中だからごめんね」
「太ってないのに」
なんて会話も虚しく、斎藤は来なかった。
「女の喜ぶ店に誘わなきゃな。しかも相手は大学生だよ?落としたいなら尚更だよな」
「女の喜ぶ店って例えば?」
「イタリアンとかフレンチとか、ビュッフェだろ、・・・あとは・・・」
「もういいよー・・・」
あーあ、と久々知はもう一度溜息をついてどんぶりの底に残った白飯を掻き込む。
「雷蔵は喜んで食ってたのになー」
「 ゚ ゚ ( △ ;) ―――は?」
三郎の動きが止まる。顔を上げてまじまじと久々知を見た。
「は?なになになに、今なんつった?え、なに?えっ、雷蔵?」
「雷蔵は喜んで食ってたのにって」
「ちょっと待て、なぜ雷蔵?えっ、食った?つまりお前、雷蔵を誘っ、た・・・?」
「ああ。下見にな。付き合ってもらった」
ぽろろん、と三郎の指から箸が落ちる。
「えーッ!?」
「行儀悪いぞ、三郎」
「なんでそういうことするんだよ!雷蔵をどっかに誘うときは俺通してからにしろよ!!」
「お前は雷蔵の事務所かよ」
「ばかーッ!雷蔵は俺のなのにい!(泣)」
ギーッ!と奇声を発して悔しがる三郎を前に久々知はキャベツの千切りを食みながら、「タカ丸さん(泣)」と嘆いている。
それからふたりは何かを吹っ切るようにカツ丼を二杯おかわりし、帰っていった。
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