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ゆうべのなつ

18 花火(小平太女体化のもんこへ?)


「待てよっ、文次郎!」
かららころろと擦るような音を立てて、小平太が追いかけてくる。文次郎は足を止めて振りかえった。ちょうど通りすがりの名も知らない女の肩にぶつかって、けれども「すいません」と呟いたころには、その姿ははるか向こうに流され小さくなっていた。小平太が文次郎の渋染の浴衣の袖を強く引っ張る。
「足が擦れた」
「どれ」
文次郎が視線を下に落とすと、見せ付けるように左足を浮かせる。鼻緒のあたりが擦れたらしく、親指の爪の辺りに血が溜まっていた。
「痛そうだな」
「ひりひりする」
小平太が拗ねたように唇を尖らせる。何事かを強請るときの特有の癖だが、今は簡単に乗せられてやる気にならない。人ごみの所為か。文次郎は少しうんざりしていた。こうして立ち止まっている今も、流されてゆく人のうねりがふたりにぶつかっては離れてゆく。文次郎は小平太の腕を取ると、黙って土手を降りた。打ち上げ花火を少しでも間近で見るために、土手にも人が林を作っている。きょろきょろと辺りをなめた文次郎は、橋の下の少し薄暗い場所に小さく腰を下ろした。無理やり歩かされた小平太は、それが気に入らなかったのか、
「だから痛いんだってば」
と文次郎の耳を引っ張る。文次郎は、ハイハイといい加減に対応しつつ、隣に小平太を座らせた。左足を己の下に置いて、まじまじと傷口を確かめる。破れた皮膚からピンクが覗き、触れると少し鉄が香った。触れたのが痛かったのだろう、小平太はびくんと身を竦める。
「慣れない格好するからだ」
「だって仙ちゃんが着てくといいっていったんだもん。これで抹殺するんだって」
「誰を」
「ん?もんじろーをだ。うふ~ん、もんじろぉ、おれ色っぽい~?」
なんちゃってね~。と、ひとりでお色気ポーズをとって笑い転げる小平太に、心よりの溜息をつく。抹殺じゃなくて悩殺だろ、と間違いを訂正する気にもならない。
「後でコンビニいって絆創膏買おう」
なにとはなしに提案したあとで、ふと、思いついて言葉を重ねる。
「いっそ、もう帰るか・・・」
ええっ!?小平太は案の定不満の声を上げた。いや、不満というよりは驚きのほうが強い。目を丸くして、隣で真っ黒な川面を見下ろす文次郎を見詰めた。
「まだ花火始まってないぞ」
「でもお前の足がさ」
「そんなの止まってれば関係ないじゃん。それにおれ、帰るくらいだったら、痛いの我慢するし!」
気負って宣言するのだが、どうにも文次郎は乗り気でない。そのうちに、様子のおかしいことに気づいたらしい小平太が、そろそろと窺うように文次郎の覗き込んだ。
「・・・帰りたいの?」
「そうじゃないけど」
「おなか痛い?さっき食った焼きそばのせい?それともたこ焼き?あれ、中身半生だった。しかもタコはいってないヤツあったし。オッサンに文句言いにいこうか」
「いや、腹が痛いわけじゃない」
「じゃあなに?おれがわがままいうから怒ったの?」
「そうじゃない」
煮え切らない幼馴染の返事に、すっかり参ってしまったらしい。小平太は黙り込んで、俯いた。足もとの青々と茂る雑草をブチン、と千切っては、文次郎の足に投げつける。
「せっかくの花火大会なのに。文次郎がそんなじゃつまんないじゃん」
きっと目が潤んでるんだろうな、と文次郎はぼんやり思う。小平太を泣かせるのは本意じゃない。今からでもテンションを上げればいいだろうか。駄目だろうな。こいつはそういうのに誤魔化されるのを嫌う。きっと、今日はもう機嫌を直すことはないだろう。
理由を話せば、それでもましにはなるのかもしれない。それでもこんな話、小平太に言えるわけがないではないか。第一、話したところで理由にもならないだろう。
「すまんな」
呟いて、文次郎はそっと臍を曲げたままの小平太を胸元に抱き寄せた。
(お前といつまでこうしていられるかと思ったら)
急に面白くなくなった。
毎年ふたりで見に行くことが当たり前になっているこの行事も、生涯続くことはありえないのだと。そんな当たり前のことに、とうとう気づいてしまった。拗ねた小平太が、それでも文次郎の浴衣の袖を弄りながら、
「文次郎がいやなら、帰ってもいいよ。でも文次郎の家な。一緒にレンタルビデオ借りてきて、それでも見てようよ。おれ、”猟奇的な彼女”が見たい。なあ、それならいいっしょ?」
と提案されるのに、返事の代わりにぎゅっと抱きしめた。スキンシップな激しいヤツだから、小平太にとってはこれも、ただの友情のハグだ。いっそ同級生にこんなところ見られて噂でも立てばいいのに。ふたりのこんな姿は当たり前すぎて、すでに話題にも上らない。
ふたりを覆う空に、今年最初の花火が音を立てて上がった。
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