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金魚の恋

17 夏祭り(竹谷女体化でこへ竹?)


こちらに向かって差し出された両手の中には金魚がいた。 掬い上げるようなかたちで重ねられた両手の隙間から、ぽたぽたと水が零れている。金魚は手のひらの中で真っ赤な尾をひらひらと翻して泳いでいた。
「なんですかこれ」
「金魚」
「それは見たらわかりますけど・・・」
「昨日祭り行ったときに掬ったんだよ。やる」
小平太は手のひらに金魚を遊ばせながら、竹谷のほうへそれを押し付けた。 夏休みとはいえ、部活のある者はなんだかんだで毎日のように学校へ行く羽目になる。竹谷は所属しているソフトボール部の練習と生物委員としての仕事があったので、毎日学校へ出てきていた。小平太は、受験生にもかかわらず部活に顔を出したり補習があったりとなかなか忙しいようで、やっぱり毎日のように学校へ通っては、暇を見つけて竹谷のところへ顔を見せに来る。それがどんな儀式なのか竹谷にはわからなかったが、ともかく小平太はかならず竹谷を探し出してはくだらない話をして、そうしてどこかへいってしまうのだった。
そうしてこの日、竹谷は小平太に金魚を差し出されてひどく戸惑った。
(やる、といわれても・・・いったいどうすれば?)
「えっと、自分で釣ったんだったら自分で飼ってくださいよ」
「いや、いやいやこれはお前のために釣ったもんだから!」
小平太は両腕に水滴を伝わせながら胸を張っていう。
竹谷はびっくりしてしまう。小平太と竹谷のつながりは、実はほとんどない。あるとすれば、中在家を介してのものか。生物委員は図書委員と合同で行う仕事をひとつ持っている。委員長代理の竹谷が図書館に赴くとき、そこにはいつも小平太がいた。彼は明るくて物怖じしないから、竹谷にも明るく喋りかけ、話をするたびに盛り上がった。でもまさか、それだけの付き合いで、土産?そして何故に金魚!?何故に剥き身のままで!
「竹谷といえば金魚だろ。そして金魚といえば竹谷!」
「いやいや、意味わかんないんですけど」
「えーみんな言わないのか?」
「初めてききました」
小平太は首を傾げる。ちゃぷん、と手のひらの中で金魚が跳ねた。
「おれ、竹谷ほど金魚なやついないとおもう」
「金魚なヤツ?」
「とにかくもらえって」
「・・・えと、とりあえずトイレの水道にでも泳がせておきますか?」
「オシ!」
小平太は率先して女子トイレのなかに入っていく。これには竹谷のほうが周囲を気にして、挙動不審に辺りを見回してしまった。いや、ほんと危ないくらい邪気がないよな。少しは持ってほしいよな。
小平太は銀の蛇口をひねって、女子トイレの白い陶器の手洗い場に水をためた。たっぷりと水が溜まったら、そこへ手のひらの金魚を放した。みんなからは見向きもされないような小さな壊れた手洗い場に、金魚が気持ちよさそうに身を躍らせる。小平太は満足そうに見やってから、
「やっぱ竹谷だな!」
と呟いた。
「七松先輩、家からずっと金魚持ってきたんですか」
「おー、手で掬ってな」
「袋に入れてこればよかったのに」
「言うな。朝もそれで文次郎からキレられた。電車のなかで隣のサラリーマンのスーツ濡らしちまった」
「あーりゃりゃ」
七松先輩電車通学だったんだ。そりゃますます、何でわざわざ金魚を持ってきたのかわからない。
竹谷は冷たい水の中に指を突っ込んで、金魚の腹を押した。 少し硬い。 きらりとうろこを光らせて、金魚はくすぐったそうに身を捻る。
「・・・かわいいなあ」
口に出したら、ふっと小平太が笑った。口から空気が漏れたみたいな、かわいい笑いだった。
「おうさ、いちばん可愛いの釣ったからな!」
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