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逢引

は組大人パロ。今度は庄伊。
庄左ヱ門と伊助はお互い好きあっているけれども、店棚の旦那だから嫁をとらなければいけない。責任感の強い庄ちゃんは母親に請われて仕方なく見合いで所帯をもっちゃって、伊助とは逢引を続けている、そんな昼ドラ展開を妄想した。


***

「伊助、痛いかい?」

 気遣わしげに、庄左ヱ門が耳元で囁いた。。伊助の肩口に埋めていた顔を持ち上げ正面から覗く。無造作に積み重ねられた薪木の山にもたれ掛けさせた背中が、粗い杉の樹皮に擦れてひりひりと痛かった。避けるようにして上半身を半端に浮かべ続けても、その姿勢が辛い。伊助は首を横に振って、庄左ヱ門の背中を絞り掴むようにして、ぎゅう、としがみ付いた。庄左ヱ門は伊助を助けるように彼の尻を押し付けるようにして己の膝の上に乗せると、丸まった背中を宥めるように優しく、労しげに撫でてくれる。けれども限界が近いのか、気遣うつもりの手は徐々に伊助の背中を撫で擦るようにして滑り、尾骶骨の辺りを執拗に撫でて結局は愛撫に換えてしまう。そんな彼の優しさと余裕のなさが顕れた無意識の振る舞いが、ひどく愛おしい。
 庄左ヱ門にしがみ付いてぶらさがっているような状態では、自由に動くことも儘ならない。伊助、動いてと庄左ヱ門が囁いた。庄左ヱ門は顔を近付け、伊助の顔に、唇に接吻する。少しの腰の揺れでも擦れる快感に眉を顰めてやり過ごしながら、舌を絡ませる。庄左ヱ門は再び、宥めるように伊助の背を撫でた。

「…恥ずかしい」

 顔を離した伊助が呟き、庄左ヱ門に抱きついたまま甘えるように顔を押し付ける。今度は伊助のよい形をした後頭部に唇を落とした。哀れみながらそこに唇を当て、啄ばむように口付けて―――後は同じだ。労わる仕草はやがて愛撫になり、伊助の心中に愛惜と、やきりれぬ哀しさを降り積もらせる。
 
「俺たち、今悪いことしてる、よね」
「うん」
 
庄左ヱ門は短い返事を零したっきり、黙って愛撫を続けている。
 伊助の頭に接吻を振り散らせながら、腕は別の生き物のように動いて、伊助の背中を抱きすくめる。納屋に入った途端お互いに余裕もなく貪りを開始した所為で、着物を脱ぐ事ができなかった。脱ぐ事もせず、先日染めたばかりの茜色の着物ごと、火照った身体を抱きしめられる。腹の中で膨れている庄左ヱ門の熱。身じろぎすると、敏感な場所を強く擦られて、伊助の身体は自然ずり上がって、逃げようとする。庄左ヱ門が喉の奥で笑って、更に押し付けてくる。

「逃げちゃだめだよ」
「…だって、苦しい」
「逃げたらいつまでもこのままでずっと苦しいよ」
「このままでいい」
「駄目、夕刻になって、ひとえが帰ってきてしまう」

 伊助の顔を見下ろし、そんな顔しないでよ、と庄左ヱ門は切なげに請う。被害者のような顔で。自分は責めるような表情を浮かべているんだろうかと、伊助はつい心配した。ひとえ、と、女の呼ぶ声の穏やかさが憎い。己の名を呼ぶ時の情念のほうが何倍も深いとはわかっているけれども、女が女であるというだけで、伊助は絶対にその名に勝てない。
 伊助は、なお喋らず、無言で庄左ヱ門の肩口に顔を擦り付けた。押し付けた腰を上下に動かして、あん、あん、とはした女のような品のない喘ぎ声を出してみせる。
 庄左ヱ門は、案外切羽詰っていたのか、ぬめりに任せて擦り合うだけの行為に厭きたのか伊助の腰から己の楔を引き抜くと、無言で押し入ってきた。解された場所に宛がわれ強張る間も無く貫かれる。伊助は、ついに辺りを憚らず声をあげてしまった。身体が隅々まで引き攣る。生命として保っていた恒常性を捻り込まれた熱さと痛みで、瞬時に徹底的に突き崩される。喉の奥から抑えようのない呻きが漏れた。
 庄左ヱ門は一旦奥まで収めるといつも、観察するように伊助の様子を眺める。不思議に静謐な顔で。張り詰めた劣情を伊助に埋め、これから登り詰める男の顔とは思えない、暫時の静けさ。その顔を見ると伊助はいつも自覚せずにはいられない。己の隙間を割り開き、収まっている、楔。埋まっている。確かに在る。思い知ると、動かない其れを確かめるように、下半身に力が篭り、締め上げてしまう。
 伊助の身体が応えるのを合図にしているのか。庄左ヱ門は自分を受け入れ歪む顔を無言で見下ろしながら、打つように引き抜いては、埋めてくる。何度か緩慢な抽迭が繰り返される。庄左ヱ門の動きに合わせ、繋がった場所を中心に、全身に靄のようでありながら確実に広がる激痛。伊助は下唇を噛み締める。いつも、庄左ヱ門の身体に爪を立てるなり声を押さえるために口腔に突っ込まれた布を噛み締めるなりして気持ちを逸らし痛みを紛らわせる。脚を割り開かれた状態では他にどうしようもない。自由にならない。不自由と激痛と、彼に抱かれ始めてから常に付きまとう罪悪感に、唇を噛み締める。声は喉の奥で死ぬのに、痛みは一向に和らぐ気配がない。
 うずめられると内臓がせり上がって嘔吐するような心地。引き抜かれると、そのまま、何かの芯を抜かれそうになる。凶暴が去ったかと弛緩しかける肉を、容赦なく再び、穿たれる。そしてまた退く。それの繰り返し。ゆっくりと、気遣うようにそれでいて暴き立てるように、庄左ヱ門は此方の顔を見ながら蹂躙を繰り返す。入ってくる。去られる。その繰り返し。何度も。痛い。痛くて、

「…………あ」

 不意に、呆けたような声を出してしまう。声になるかならぬかの呟き。しかし噛み締めていた唇を解いてしまった。何度目かの、奥までいれて、引き抜かれる動作の瞬間、ふと滲むような快楽の気配があって呟いてしまった。喘ぎと呼ぶにはささやかすぎる一声。それでも庄左ヱ門は気付いたのだろうか。やや今までより乱暴に奥まで埋め込まれ、そのまま小刻みに揺さぶられる。

「あ……あ、あ、」

 喉の奥から勝手に声が漏れる。一度離すと上手く唇を噛み締められなかった。揺さぶられながらでは上手くいかない。呆けたように、口から勝手に漏れる声。息のように声が上がる。抑えられない。一度自覚するとあたたかな液が滲むように下腹部から、せり上がる快楽。
 
「庄…ヱ、門…ッ。だめ、駄目・・・!」
「伊助、どうしたの」
「声、だめ、とめらんな・・・っ」
「いいよ、出して。聞かせて」

 依然痛みはあるが、慣れている伊助は一度その端を捕えた快楽を逃がしはしなかった。僅かに腰が浮き上がる。庄左ヱ門を受け入れ易いよう。眉根を寄せて、睨みつけると、大丈夫だよと苦笑した庄左ヱ門の手が伊助の剥き出しになった細腰に伸び、しっかりと掴んで、柔らかな笑みから取り残されたように激しく何度も突き上げてくる。静かな顔は相変わらずだが、両の眼にはいつの間にか融けるような潤みが宿って、執拗に伊助の肢体を見下ろしている。

「ねえ…庄ちゃん」

 腹を、内側から食い破られるような突き上げに息を乱しながら、合間に何とか呼びかける。伊助を抉る事に執心しながら上の空であったが、何、と庄左ヱ門はしっかりした声で応えた。彼は伊助が呼びかけて無視をした事がない。

「どうしたの?」
「…」
「伊助、」
「…今度いつ逢えるかなあ」

 庄左ヱ門は無言で伊助の身体を抉ることを続けた。緩急をつけて、伊助の腹の内側を、指で弄ると反応を見せる場所を狙って先端をこすり付けるように動く。時折焦らされ、しかし徐々に追い上げられながら、伊助は苦しかった。焦燥していた。腰が浮き上がるような快楽。庄ちゃんは時々とても意地悪だ。さっきから全然前を触ってくれない。直接の刺激さえあれば、すぐにでも爆ぜられるのに。本能と欲望は最も手っ取り早い手段を知っているが故にそれを求める。ここまで来たら握り締めて擦って、中の庄左ヱ門を締め上げながら、さっさと達してしまいたい。無意味にも関わらず虚しく腕が暴れる。
 矢張り直接の刺激がなくては。というか、何でもいいから、もう、触れてほしい。名前を呼ぶ。

「庄ちゃん、…庄左ヱ門、好きだよ」

 呼んだ名は男を追い上げた。何度か激しく擦り上げて、最後に一際強く突き上げた最奥で、庄左ヱ門が果てる。すぐには分からないが自分を抱きしめたまま僅かに呻いた庄左ヱ門の様子と、腹の中に、じわじわと染み広がるような温もりの気配に察する。伊助は庄左ヱ門の射精を受け入れながら、ひとつの予感に無言で息を詰めた。覚えのある感覚が腰の辺りからせり上がってくる。あんなに望んでいた衝動を伊助は必死に堪えようとした。しかし耐えられなかった。腹の中に吐き出されたものは逃げる場所も無く伊助の体内に容赦なくぬくもりを拡げて、緩慢な筈のその刺激に、伊助は身震いをして―――そのまま精を吐いた。腹の上に吐精され庄左ヱ門がその満足と幸福に目を細めた。
 黴臭い納屋の隅っこで、カア、と鴉が一羽鳴くのを耳にして、ああ…、と伊助は疲れたように嘆息した。日が暮れてしまう。今度はいつ逢えるのという問いに確実な答えを返してくれない庄左ヱ門の律儀さが愛おしく、そして憎かった。
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獣の本能

大人虎伊。
伊助は稼業の染物屋継いでいます。虎若も佐武村の鉄砲隊で活躍しています。

虎若は戦場から帰ってくるといつも真っ先に伊助のもとを訪れるよという話。


虎若は、低く殺したような息を漏らして、伊助の手首を掴んだ。
手を引き寄せられ板の間の上に転がされる。視界の端に水桶と、その中から手拭いを取り出す虎若の手が見えた。軽く絞った布を片手に虎若が改めてにじり寄ってくる。僅かに腰を上げさせられる。意図を察して、伊助が反射的にその手を押し留めると、虎若は愚図る子供を相手にしたような、それでいて、嫌がる相手を捻じ伏せる快感を知っているような、奇妙に優しい笑みを口元に浮かべた。ごねるなよ、と声にも苦笑が滲む。

「あいにくと滑りを良くするようなもの、何も持ってないんだ。だけど、多少湿らせた方がましだろ、多分」

返事の代わりとして、伊助はふうと息を吐いた。虎若は、激しい戦に駆り出された後は、いつも決まって伊助のもとを訪れる。そうして伊助を食いたがる。求められることに否やはないが、戦神にとり憑かれた虎若は、平生と違ってただただ激しいから、伊助としてはそういうときの彼に抱かれるのはあまり好きではない。興奮を収めるためとはわかっていても、体が壊されそうなほどに乱暴に揺さぶられれば、もっと理性から離れた根源的な感情の部分で、この男を怖いと思う。己の声が届かぬのではないかと畏怖する。けれど、虎若を戦神に連れて行かれたままなのも嫌なのだ。
伊助は忌々しい気持ちで手を伸ばし、視界を覆う虎若の顔の右頬を緩くつねった。どう曲解したのか其れを是と解釈したらしく、虎若は濡れた布を、伊助の股下、更に奥に宛がってくる。後孔に湿った布の感触がゆっくりと押し付けられ、徐々に指で押し込まれる。内側を撫でるように清められ、濡らされる。快感というよりはむず痒い、嫌悪に近い感覚が腰から背筋に這い登って、伊助は虎若の剥き出しの肩に爪を立てた。非難の意図もある。虎若は、同情するような様子で「気持ち悪いか、」などと気遣ってきて、その可笑しな優しさが、この時の伊助には気に食わない。
布は奥までは上手く押し込めなかったのか、指だけが、深く挿し入れられ、内側を撫でる。深い位置で虎若の中指の先が小刻みに蠢いて伊助から快感を引き摺り出そうとしている。下腹部に何かが滲み出すような、そんな官能の気配がして唇を噛み締めた。何度も何度も虎若の指先が腹の裡を擦り、時折指を曲げて引っ掻くので、徐々に身体の力が抜けた。解される時に感じるのは、いつも快感というよりは脱力だ。空いた方の手が伊助の口元に宛がわれる。太い指がやんわりと口内に差し入れられ、伊助はそれを軽く噛んだ。虎若は意に介さず、やわっこいなあ、と虎若の国の言葉で零しながら、頬の内側の肉を、そして下での体内をまさぐる。しみじみしたような長閑な呟きに、しかし、隠しようのない獣の気配が滲んでいる。彼の大らかさに取り残されたように、或いは添うように、剥き出しの本能が瞳の奥に熱く潤みながら浮かんでいる。顔を持ち上げて視線を注げば、虎若の中心は、申し分なく熱り立っていた。
埋めていた右の指を引き抜き、布も引き出して、伊助の唾液に濡れた左の指を今度は二本、伊助の後孔に埋める。わずかに曲げた指先で何度も何度も同じ場所を擦られる。腰が自然と浮き上がるような気配を感じながら、伊助は手を伸ばした。虎若の凶暴に手を触れる。肉塊とは思えぬ歪な形、輪郭を撫でる。日焼けして浅黒い肌とも違って、其処は赤黒くて、疲れ皺けた肉の色をしていて、奇妙なものだと、自分も持っているものなのに呆けたような感想を抱く。虎若が二本の指を引いて、今度は三本に揃えて改めて押し込んでくる。息を引き攣らせた瞬間すぐに引き抜かれた。にじり寄った虎若の切っ先が解された場所に押し当てられ、呼吸を整える間もなく其のまま貫かれた。奥まで、一息に埋没する。埋められる。満たされる。ぴたりと閉じていた場所を無理矢理に抉じ開けられるような、それでいて、体内に僅かに生まれて落ち着かなかった隙間を、度を越して満たされたような、烈しい痛みを伴う埋没感。身体が自然にずり上がって逃げようとする。獣の両腕が伊助を押さえつけて、それを許さない。
戦の興奮冷めやらぬ虎若の捻じ込みは、急だった。奥まで収め、その痺れるような圧迫と快感を暫時留まったまま味わってから、動き出す。緩急を意識しない性急なだけの揺さぶりに伊助は引き摺り込まれぬよう手を握り締めた。虎若の肩に、背中に掴まって、遠慮なく爪を立てる。硝煙の匂いが染み付いた肌に疵は多く残っておれど、新しい疵はないようだ。無事に男が帰ってきたことに伊助は安堵する。滑りが足りぬせいなのか、虎若は際まで引き抜いて、一気に突き入れるという大雑把で乱暴な動きを繰り返す。初めは臓腑を叩かれるような衝撃に息が詰まるばかりだったが、徐々に、引き抜かれる際の声が漏れそうになる。快感に、意識が傾き始める。余裕のない虎若の顔にも、引き抜く度に笑みのような、泣き顔のような引き攣りが生じる。怒ったような切羽詰ったような獣の形相が、穏やかな人に戻っていく瞬間が伊助は好きだ。自らも快楽に流されるとその顔を観察できなくなるので、伊助はいつも此岸に留まって、交わりを他人事のような眼で見ていたくなる。

「きつい」

虎若が童のように素直な感慨を口にする。呟きながら、今まで触れることを忘れていた伊助の中心を握り締める。不意の接触に両脚が先端まで痺れたようになって腰が浮く。力が込められ益々締め上げがきついのか、伊助は、恍惚か痛みかに、長く湿った息を吐く。敷布の上に身体を押し付けられ激しく抽迭を繰り返される。茣蓙、布を何重敷いてはいても硬い床板の上。背中に堅い感触。平らな場所に押し付けられて背が、背骨が軋む。
――――不意に、彼がいない間の平穏で退屈過ぎる日常はようやっと終わったのだと伊助は理解した。柔らかな褥の上でなく、余裕のないこんな交わりがなんとも自分たちらしいじゃないかと伊助は苦笑する。逢いたかったのは、伊助も同じだ。否、戦に夢中になっていた虎若より、よほど。自分も相手も交わる前の清めは不十分で、相手に至っては、尋常でない。声は優しく、気性も柔らかに思えるが、彼の本質は優しくとも、戦帰りの彼は、翻って、興奮と衝動のままに自分を犯す。獣の内面を曝け出して伊助にぶつかってくる。受け止めるのは苦しくとも、己しか果たせぬ役目とあらば、嫌な心持がしないのが惚れた弱みというやつだろう。
一度目の限界が近いのか虎若は伊助を抱きすくめ、揺さぶりを繰り返す。繋がった場所に麻痺を感じながら伊助はただ受け止めた。彼の肩口に顔を埋める。

「と、とらわ、か」

舌ったらずな口調で名を呼べば、ふいに鼻を突く、強い香り。血と死霊の気配よりも強く匂うそれは、火薬の匂いだった。狭い平原を焦土と貸した虎の容赦無き火力の、名残。虎若は火縄銃の話は嬉々として伊助に語るけれど、戦場でのことはほとんど語らない。たくさんの血が流れて、人が大勢死んだろう。虎若も誰かを、殺したろう。それでも帰ってきて嬉しい、と伊助は思う。怪我ひとつないことに安堵する。激しく抱き締められている間じゅう、混沌とした薄暗い感情と、理性と、野生に突き動かされ途方に暮れる男を、伊助は許す。お前は何も悪くないのだと、それでいいのだと言い聞かせる。これは、獣が、人間に戻るための儀式なのだ。
一際強く奥まで穿たれて、伊助は男の腰に足を絡ませ、引き寄せた。最奥で虎若が果てる気配がする。低く呻いて自分に縋りつく獣を、心底愛しいと思った。腹の中に温もりが吐き出されゆっくりと潤むような心地がする。背筋を悪寒が、快感が走って、益々強く虎若の腰に足を絡み付かせる。射精しながら責められて強すぎる快感に伊助は目を閉じて耐えている。或いは味わっている。いくさ場での興奮の末、今この男は自分の中で頂点を感じているのだと思うと、凄まじいまでの支配の実感が伊助の中に湧き上がった。分け与えられている、と思う。痛みも苦しみも興奮も、口では決して伝えきれる獣としての領分を、確かに分け与えられている。腰を捕らえ決して引き下がれぬようにしたまま、両手でその顔を挟み、引き寄せる。閉じられた瞼が、ゆっくりと、虎若の為に開く。

「おかえり、虎ちゃん」
「ただいま、伊助」

口付け、口内をまさぐると味がする。虎は、戦場で生者或いは死者を喰らいでもしたのだろうか。虎若の舌は強い血の味がした。

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