拍手で女体化に賛同してくださったかた、ありがとうございますー!
そんなわけで生物委員女体化(竹谷、孫兵)。
街の噴水に儚げな美少女がひとり、腰掛けている。
黒いレースの日傘を差してほっそりとしたミルク色の肌を強い太陽光から隠している。薄い綿地のワンピースが涼しげだ。少し俯いた顔が憂鬱げで、物思いに耽った様子がひどく同情を誘う。
そんな様子だから、先ほどから彼女はひっきりなしに見知らぬ男性に声をかけられている。
「誰か待ってるの」「どうしたの、何か困ってるの」
少女は黙して何も語らない。ただ、一度、強面の男性に無理に腕を引かれたことがあった。
「やめてください、こまります」
少女の懇願も無視して、無理に攫おうとする。
「やめてください。本当に・・・あなた、怪我をしますよ」
少女の言葉に、男が胡乱な瞳を向けた。そうして、悲鳴をあげた。いつの間にやら、少女の足元に、肩に、蜂やら蛇やら蠍やらといった毒虫たちが集まってきているのだった。それはまるで少女を守ろうとしているかのようだった。男が慌てて逃げていってしまうと、少女はまた、溜息をついて、噴水に腰掛ける。
やがて、ひとりの少女がその少女の前に現われた。こちらは日に焼けて色が黒く、ごわごわと強そうな髪をポニーテールにしている。
「孫兵、泣いてないか?」
「竹谷先輩」
儚げな少女ははらはらと涙を流した。「ジュンコが逃げちゃったんです・・・!」
「うん、はやく探さなくちゃな!」
「どこかで怖い目にあったりしていないかしら」
孫兵と呼ばれた少女はきゅっと竹谷のセーラー服の裾を握った。竹谷は孫兵を抱き締めて
「泣くな、孫兵。あたしがすぐに探し出してやるから」
とあやした。その異様な光景を、通りすがりの人たちは少し遠巻きに見守っている。
伊作、仙蔵、小平太、女体化。
「腹減った」
と仙蔵が言った。文次郎の一歩先を歩いている。
「腹減ったぞ、文次郎。なんか美味い店は無いのか」
「うるせーな。女が腹減ったって言うな」
「腹が減った」
「馬鹿、この猫かぶり!」
仙蔵は文次郎の前でだけ口が悪くなる。とても我が侭になる。文次郎が、「オイ」と立ち止まって声をかけた。仙蔵が振り返る。
文次郎の親指が、くいっ、と通りに並んでいる店の一件を指差した。それはカツ丼屋だった。
キャベツおかわり自由、と張り紙がしてある。
「女をカツ丼屋に誘うな、阿呆。やり直しだ」
仙蔵の容赦ない蹴りが飛んできた。
「ちょ、う、じーッ!!」
放課後を過ぎて下校時刻の音楽が流れ始めるころ、土ぼこりにまみれた少女が図書室に駆け込んでくる。長次は読んでいた本を閉じた。今は、カミュの『異邦人』を読んでいる。
「部活終わった!帰ろう!」
高いところで結ったポニーテールがふわんと揺れている。汗と土の匂いがする。それから、制汗スプレーの偽物めいた強い甘い匂い。初めはそんなものつけなかったのに、伊作か仙蔵かにつけろと言われたらしい。
「汗の匂いそのままにして長次のところいくなんて恥ずかしくないの!」
別に恥ずかしくないもーんと笑っていたはずが、どういう心境の変化でつけはじめたのだろうか。長次は聞いてみたくて仕方がないような気がしている。
玄関を出ると、もう七時を過ぎているのに、夕陽が眩しかった。
「腹減ったなあ、長次、なんか食ってこー」
「・・・」
小さく呟かれた声に、小平太ははじけたように笑った。
「女をカツ丼屋に誘うやつなんて最低だって仙ちゃん行ってたぞー!うん、まあ、カツ丼食いにいって喜ぶ女なんて私ぐらいのもんだな。長次、私以外の女カツ丼屋に誘ったら駄目だぞ!」
長次は夕陽に目を細めて低く呟く。
「ああ。お前だけだ、お前だけ」
「カツ丼食いに行くか」
と食満が言ったので、伊作は笑ってしまった。なんだ、と目の前の男は不審な顔をする。
「いやさ、この間のカツ丼談義を思い出したから」
「?」
「仙蔵が女をカツ丼屋に連れて行くことをどう思う、というからさ、そのことについてこの間は盛りあがったのさ。小平太は自分は誘われたら嬉しいといって、でも仙蔵は最低だというから」
「お前はどう答えたんだ」
「うーん、誘われたことは嬉しいけれど、カツ丼屋というのがロマンの欠片もなくて嫌だねといった」
食満は胡乱な眼をして伊作を見た。
「何言ってやがる、お前が。ロマンチックに誘われたきゃ内省してからにしろ」
「あはは、そりゃそうだ」
伊作は笑いながら、持っていた石焼いもをほっくりと食んだ。
雷蔵とタカ丸、女体化。でもふたりは不在。
ボリュームたっぷりのカツ丼を口いっぱいに頬張りながら、もぎゅもぎゅと久々知は話す。
「あーあ・・・どうして断られちまったのかなあ」
先ほどから出る言葉といえば、情けないような愚痴ばかりだ。三郎は向かいでおかわり無料の千切りキャベツの追加を店員さんに頼んでいる。それから、「や、断られるだろ、ふつう」と言った。
「年頃の女にカツ丼が美味い大食いの店がありますから一緒に行きませんか、って、来るはずないだろ」
先日、久々知は年上の想い人斎藤タカ丸に、このカツ丼屋を紹介して見事玉砕したと言うわけだ。
「んと、今ダイエット中だからごめんね」
「太ってないのに」
なんて会話も虚しく、斎藤は来なかった。
「女の喜ぶ店に誘わなきゃな。しかも相手は大学生だよ?落としたいなら尚更だよな」
「女の喜ぶ店って例えば?」
「イタリアンとかフレンチとか、ビュッフェだろ、・・・あとは・・・」
「もういいよー・・・」
あーあ、と久々知はもう一度溜息をついてどんぶりの底に残った白飯を掻き込む。
「雷蔵は喜んで食ってたのになー」
「 ゚ ゚ ( △ ;) ―――は?」
三郎の動きが止まる。顔を上げてまじまじと久々知を見た。
「は?なになになに、今なんつった?え、なに?えっ、雷蔵?」
「雷蔵は喜んで食ってたのにって」
「ちょっと待て、なぜ雷蔵?えっ、食った?つまりお前、雷蔵を誘っ、た・・・?」
「ああ。下見にな。付き合ってもらった」
ぽろろん、と三郎の指から箸が落ちる。
「えーッ!?」
「行儀悪いぞ、三郎」
「なんでそういうことするんだよ!雷蔵をどっかに誘うときは俺通してからにしろよ!!」
「お前は雷蔵の事務所かよ」
「ばかーッ!雷蔵は俺のなのにい!(泣)」
ギーッ!と奇声を発して悔しがる三郎を前に久々知はキャベツの千切りを食みながら、「タカ丸さん(泣)」と嘆いている。
それからふたりは何かを吹っ切るようにカツ丼を二杯おかわりし、帰っていった。
我慢できずやった。女体化。あほ。
「夏のデートスポットつったらプールだろ」
との三郎の一言でダブルデートの目的地は大型プール施設に決まった。決まったとたん雷蔵とタカ丸は落ちつかなげにそわそわして「水着どうしよう」とか「うひーん、ダイエットしなきゃ」とごにょごにょ囁きあっている。山を主張していた久々知は黙ったままだった。三郎が横から覗き込む。
「何を考えてる?」
「いや、別に何も」
「隠すなよ。三郎様グッジョブとか考えてるんだろ?自重しなくていいぜ」
「誰がそんなこと」
「タカ丸さんの水着姿。」
「・・・」
「三郎様GJ!って三回唱えろよ」
「死んでしまえ」
「楽しもうぜ、ひと夏のアヴァンチュ~ル」
ぽんぽんと三郎が久々知の方を叩いたところで、隣から、タカ丸がそっと久々知の袖口を引いた。
「ねえ、兵助、次の日曜に雷蔵と水着買いに行くことになったんだけど、」
「うん」
「どんなのがいい?」
首を傾げて雷蔵を覗き込むタカ丸の笑顔がまぶしすぎる。久々知はどう答えていいものか迷った。返事につまると、すかさず三郎が久々知の声音を真似て、
「黒のハイレグ。」
と言葉を挟む。「え?」キョトンとしたタカ丸に、久々知は怒りを露にし、三郎を殴りつけた。
「お前は黙ってろ!」
「兵助はパレオみたいな清楚系が好きっすよ」
「タカ丸さん、信じなくていいから!」
ぎゃいぎゃいと騒がしい男たちの横で、雷蔵は落ち着いて注文したアイスティーを飲んでいる。
「雷蔵は何着るの?」
タカ丸が訊ねると、雷蔵はにっこり笑って
「スクール水着」
と答えた。これに驚いたのは三郎で、「えっ!?」と動きを止めてまじまじと雷蔵を見つめる。
「三郎の趣味なの」
「雷蔵、俺そんなことひとことも言ってないぞ!」
「・・・私、店内で暴れる男の人って嫌い」
途端に大人しくなる三郎に苦笑したふたりだった。
拍手&コメントありがとうございますー。
だんだん血なまぐさい話になってきて、(しかもなかなか終わらなくて)申し分けないです(´ヘ`;)
今回も血なまぐさいので注意。
⑯不破が呼ぶ
忍者というのは、なるほどオールマイティーな技術を要する職業であるから、忍術学園の天才といわれたとき、部門ごとに必ず数人の名前が挙がる。鉢屋三郎はその一人である。変装なら、教師をも凌ぐという。鉢屋衆の出である。鉢屋衆というのは、計略―なかでも騙し討ちに長け、恐れられている集団である。しかし、名門ではない。もともとが卑しい河原者の出であるから、周囲からは畏怖されて一種腫れ物を扱うような目で見られているところがある。父が、やはり変装の名人なのだという。学園に入ってからは同級生の不破雷蔵の顔を借りて過ごしている。素顔はだれにも見せない。ひどい醜貌なのだろうというものもいるし、いや、河原者は美しいものが多いと語るものもいる。鉢屋はどちらも相手にせず、ただ飄々と醜女や美女に変装してやり相手をからかってやるだけである。こういう、トリックスターの性質が鉢屋にはある。
鉢屋がふたりの四年生相手に目を輝かせて立ち回っているとき、その名を呼ぶものがあった。振り返ってみると、ひどく焦った表情をした後輩である。鉢屋は鋭く苦無を突き出してきた三木ヱ門の腕を掴むと、そのまま投げ落とし、背中だけで「なんだ、」と聞いてやった。四年生の説明は心もとなかった。
「曲者が、現われて、遊び目を抱いているんですが・・・長次先輩が追って」
鉢屋は戦いながら聞いている。滝夜叉丸の投げる千輪を弾くと、軌道の逸れたそれが四年の元に飛んでいき、怯えた声を上げさせた。
「それで、俺にどうしろと?」
「不破雷蔵先輩が呼んでおられます」
鉢屋の動きがピタリと止まった。「馬鹿野郎、それを最初に言え」
鉢屋は殊更に明るい大声をあげて三木ヱと滝夜叉丸の名を呼ぶと、「おい、ここまでだ」と言った。
「俺は行かねばならん」
三木ヱ門は分かりやすく膨れている。もとが凛々しい若武者顔だけに、こうして膨れた顔を見せると、ご機嫌をとってやりたくなるような微笑ましい可愛げが出る。鉢屋が口元を綻ばせた。滝夜叉丸が横から口を挟む。
「六年生が出ている、ということは忍務でしょうな。惜しいですが御留め立てできません」
「すまんな、勝負は預けだ」
「おい、不破先輩の場所は」
三木ヱ門が訊ねると、四年生は同級生に対峙する気安さで、
「六条の辻の、」
つらつらと言いかけたそのときだった。死者役をする四年生の背後に人影が忍び寄った。「あ」と声を上げるまもなく、慣れた手つきで人影は少年の首を掻き切る。血が飛沫となって吹き上がった。これには少ない通行人たちが大声をあげて逃げ惑い、市井の外れではあるが、蜘蛛の子を散らしたような騒ぎになった。
「先輩!」
滝夜叉丸が鋭い声を上げる。
「お早く!ここは我らが」
鉢屋が動かんとするのを人影は邪魔をしようとしたらしかった。だが、僅かに動いたところを滝夜叉丸の千輪に防がれてたじろいだに過ぎなかった。
「すまん、任せる」
鉢屋は背中で言い捨てると、そのまま騒がしい人混みの間を抜けていった。その姿は、いつの間にやらそこらの若衆の姿に変わっている。