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    <title>よいこわるいこふつうのこ</title>
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    <description>にんじゃなんじゃもんじゃ</description>
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    <title>恋は思案の外</title>
    <description>その日の昼になっては組はにわかに騒然となった。喜三太が学校を無断欠席した。それだけでなく、どうやら誰にもなにも告げず勝手に寮を抜け出したということがわかったからだった。担任の土井が昼休みにクラスのメンバーを集めて喜三太の行方を知る生徒がいないか確かめた。けれど、だれもなにも知らなかった。みんな困惑し...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">その日の昼になっては組はにわかに騒然となった。喜三太が学校を無断欠席した。それだけでなく、どうやら誰にもなにも告げず勝手に寮を抜け出したということがわかったからだった。担任の土井が昼休みにクラスのメンバーを集めて喜三太の行方を知る生徒がいないか確かめた。けれど、だれもなにも知らなかった。みんな困惑した表情で、喜三太がどうしてこんなことをしでかしてしまったのか、理由を探しているふうだった。金吾は黙り込んでいた。表情はやきもきと気を揉んで、落ち着かない様子だった。土井が職員室に戻ろうと教室から廊下に出ると、「先生！」ときり丸が背中から声をかけた。土井がふり返ると、きり丸はずいぶん落ち着いて、けれど心配げに眉根を少し寄せて、</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">「実家は」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">と尋ねた。「帰ってねえの？」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">土井は首をふった。午前中に確認のために電話を入れたが、帰宅することにはなっておらず、喜三太から特になんの連絡も受けてないということだった。</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">「警察に連絡とか、すんの」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">そういう話題はすでに教師間で出ていたから、土井は素直に頷いた。</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">「そうだな。夕方まで待って、なんの進展もなかったら」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">「そっか」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">きり丸は頷いた。なにか自分なりに決めた様子だったので、土井はそれが知りたくて、首を傾げて見せた。きり丸は苦笑して、</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">「夕方まで何の進展もないようなら」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">と返した。そのとき言う、という意味だ。土井は詳しくは聞かずに、そうか、とだけ頷いた。</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">「きり丸、喜三太やお前たちに悪いことにならないように。判断を誤らないようにな」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">「うん」</span><span style="font-size: 9pt"><br />
</span><span style="font-size: 9pt">きり丸は素直に頷いた。きり丸にとって土井はただの担任というわけでなく、兄代わりで親代わりだった。土井を裏切るようなことは絶対にない。土井もその信頼があるから、きり丸の返事に満足して大きく頷いた。</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left">&nbsp;</div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left">&nbsp;</div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">喜三太の実家の相模では、リリイに喜三太出奔の一報が入り、与四郎が駆けつけていた。与四郎は蒼白な顔でリリイに詰め寄った。彼には珍しく声を荒げて、外聞無くリリイを詰る。</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「喜三太に俺との結婚を強要したのけ！そんなかわいそうなことすりゃ、姿くらますのも当然だべ」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「おぬしも喜三太も互いに想い合うておるのじゃから、婚約者と定めることの何がそんなに悪い」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「おばば！！喜三太はまだ</span><span style="font-size: 9pt">14</span><span style="font-size: 9pt">歳じゃっ！」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「もう</span><span style="font-size: 9pt">14</span><span style="font-size: 9pt">じゃ。あと</span><span style="font-size: 9pt">2</span><span style="font-size: 9pt">年したら立派に結婚できる」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「そういう問題じゃねえべ！</span><span style="font-size: 9pt">14</span><span style="font-size: 9pt">っていったら、ようやく世間様を知って色んなことに興味もわいてくる年頃だべ。相模にいたころは喜三太は他に比べても世間知らずの娘ッ子で、男も俺と</span>仁之進くらいしか知らなかった。だども相模を出て遠くの学校行って、同じ年代の色んな男とも仲良くなったろう。喜三太だって人並みに恋くらいするだろうがよ。俺は確かに喜三太が好きだ。けど喜三太はそうともかぎらねえ。好きでもねえ男と婚約なんてあんまり可哀想だーよ<span style="font-size: 9pt">」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「喜三太が風魔以外の男と結婚したらならんのじゃ！それだから無理もいうておる。外の学園に行って、他の男を知るなんてあってはならんのじゃ。幸い、喜三太は心の成長が遅いし、まだ恋だのなんだのにはこれっぽちの興味もわいていない様子。じゃが、もたもたしておれば人並みに恋もしよう。そうなるまえに風魔に連れ戻しておぬしと結婚させる。それのどこが悪い」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「だからっ、それでは喜三太が可哀想じゃと&hellip;」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「与四郎ッ！！」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">リリイの一際高い激昂が飛んだ。興奮していた与四郎は気圧されて息を呑む。</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">「勘違いするな。風魔のための結婚ぞ。好いた惚れたは思案の外じゃ」</span></div>
<div style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt" align="left"><span style="font-size: 9pt">与四郎は何か言い返そうと口を開いたが、結局は言葉を抑えて拳を握り、そのままリリイの家を出て行った。</span></div>]]></content:encoded>
    <dc:subject>は組現パロ</dc:subject>
    <dc:date>2011-04-04T08:02:29+09:00</dc:date>
    <dc:creator>No Name Ninja</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>No Name Ninja</dc:rights>
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    <title>出発</title>
    <description>早朝の新聞配達のアルバイトを終えたきり丸は、学園の寮門を静かに出てくる喜三太を見つけて「おい」と声をあげた。
「どうしたんだよ、喜三太。いやに早起きじゃねえか」
あたりはようやく日が昇りはじめた頃合いで、薄く朝もやがかかっている。朝陽があたりの雲を金色に染めあげて、藍色の空を少しずつ洗ってうす桃...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<p>早朝の新聞配達のアルバイトを終えたきり丸は、学園の寮門を静かに出てくる喜三太を見つけて「おい」と声をあげた。<br />
「どうしたんだよ、喜三太。いやに早起きじゃねえか」<br />
あたりはようやく日が昇りはじめた頃合いで、薄く朝もやがかかっている。朝陽があたりの雲を金色に染めあげて、藍色の空を少しずつ洗ってうす桃色、乳白色から浅葱へと染め直していく。喜三太は陽光を浴びてきらきらと輝きながら、そこに立っていた。ワンピースにパーカーをはおっただけのラフな格好をして、背中には荷物の少ないリュックサックが、ぺしゃんこのまま引っかかっていた。<br />
「どっか行くのか」<br />
きり丸はいぶかしげにたずねた。喜三太は困ったような顔をして黙っていたが、やがて小声で「・・・実家」と答えた。<br />
「里帰りするのか。平日にか」<br />
「うん。ちょっと、いろいろあって」<br />
「ふうん」<br />
きり丸は勘は鋭いが、人に深入りしない優しさを持っている。それは、例えば団蔵とは違う優しさで、団蔵は人の懐に潜り込んでどこまでもその人を深く知って飲み込もうとする。けれどきり丸は、誰もが抱えているはずの誰にも踏み入れられたくない心の場所を、気付いても気付かぬふりしてそっとしておいてくれる。きり丸は少しつきあっただけの人には、冷たい男だといわれる。きり丸本人も、そう言う。だけどは組のメンバーは、きり丸のそういう優しさをちゃんとわかっていた。世の中には色んな優しさがあっていい。<br />
「誰にもいわないでね」<br />
喜三太は、きり丸を見上げて言った。思いつめた表情だった。きり丸は、興味のなさそうな表情のままで、<br />
首を傾げた。<br />
「誰にも言わないでっていうのは、お前が早朝から実家に帰ろうとしていることを、っていうことか」<br />
「うん」<br />
「俺が黙っててもすぐばれるぜ。学校があるんだもの。お前が欠席してたら、みんな心配して、喜三太はどうしたんだって話になるだろ。土井先生は、お前が実家帰ること知ってんの」<br />
「うん」<br />
「じゃあ、俺が黙ってる意味、あるか？」<br />
「あるよ」<br />
「よくわかんねえ」<br />
「そのうち、わかるから。わかっても、黙ってて。心配いらないから」<br />
喜三太は妙に緊張した面持ちをしてきり丸と向かいあっている。寮門のうちで、へむへむの笑い声が聞こえた。<br />
「いけない、みんな起きてきちゃう」<br />
喜三太は慌てて駆けだそうとした。まるで、逃げるみたいだった。きり丸は、自分よりずっと背が低い喜三太の腕をぐっと掴んだ。喜三太は、それ以上進めなくなって、止まる。困ったようにきり丸を振り返った。<br />
「離して」<br />
泣いているみたいな声で訴えた。きり丸はため息を吐いて、<br />
「大丈夫なんだよな」<br />
と強い口調で念を押した。喜三太は黙ってうなずく。涼やかな美貌のきり丸が、少し逡巡したあと、顔を歪めてばりばりと頭を掻いた。<br />
「俺はお前の友達だけど、は組の一員でもあるし、俺らの心配が限界越えたらお前との約束は破るぜ。それでもいいな」<br />
喜三太はじっときり丸を見つめて、それからはっきりと一度うなずいた。<br />
「うん、それでいいよ。ありがとう」<br />
「怪我とか、病気とか、自分がつらくなるようなことはすんなよ。お前がつらいめに遭うと、いやな思いをするやつがいっぱいいるんだから」<br />
「うん」<br />
喜三太はまたうなずいて、それから、ワンピースのポケットを探ってひと掴みぶんの飴玉をとりだした。<br />
「あげる。口止め料だよ」<br />
「やっすい口止め。こりゃべらべら喋るしかねえな」<br />
きり丸は笑って、包み紙をといて小さな飴玉を口の中に放り入れた。それから、「お前、金もってんの」とたずねた。喜三太は、「二千円くらい。ねえ、それで新幹線とかってのれると思う」と子どもみたいなことを聞く。きり丸は今度こそ呆れて、「無理だろ」とあっさり答えた。それからパーカーのポケットから給料袋を取り出すと、三万円を喜三太に手渡した。<br />
「なるべく早く返せよな。それ、乱太郎の誕プレ資金なんだから」<br />
喜三太は驚いて顔をあげた。きり丸から貸してもらうにはあんまり意外すぎるものだった。返そうと思ったが、そのときはもう背中を向けて、背中越しに手を振っていた。<br />
「じゃーな、喜三太。早く帰ってこいよ」</p>]]></content:encoded>
    <dc:subject>は組現パロ</dc:subject>
    <dc:date>2010-09-07T02:20:19+09:00</dc:date>
    <dc:creator>No Name Ninja</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>No Name Ninja</dc:rights>
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    <title>先輩</title>
    <description>故郷の人から電話だというので受け取ってみたら、与四郎からだった。与四郎が時々心配してかけてくれる電話は、喜三太にとって毎回とても嬉しいものだが、今回ばかりは弾んだ声が出せなかった。喜三太は、故郷のリリイばあちゃんがすでに与四郎になんらかの話をしたのだと思って、電話の内容をあやしがった。
喜三太は、...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<p>故郷の人から電話だというので受け取ってみたら、与四郎からだった。与四郎が時々心配してかけてくれる電話は、喜三太にとって毎回とても嬉しいものだが、今回ばかりは弾んだ声が出せなかった。喜三太は、故郷のリリイばあちゃんがすでに与四郎になんらかの話をしたのだと思って、電話の内容をあやしがった。<br />
喜三太は、リリイから、「16になったらお前は錫高野のせがれと結婚するのだ」と言い聞かされてきた。錫高野与四郎は喜三太より年上の青年だが、昔から喜三太に優しかった。喜三太にとって神奈川の小学校時代は、必ずしもいい思い出とはいえない。かわりものの喜三太は、同い年の女の子からは避けられることが多かったし、男の子からはひどい言葉でからかわれた。その時分、与四郎はすでに中学生だったが、部活があっても試験があっても喜三太が泣いて彼のもとを訪ねると、なんでもほっぽって喜三太の話を聞いてくれた。小学校でいじめられているのだという話をしても、与四郎は黙って最後まで話を聞いてくれたあと、<br />
「俺はなにがあってもおめえの味方だ」<br />
と言って、それから涙がとまるまでいっしょに遊んでくれた。<br />
与四郎はことあるごとに言った。<br />
「喜三太、生きてる限りつれえことはいろいろあるべさ。それは死ぬまでずっとだ。けどな、俺はいつでも喜三太の味方だ。世界中の人がおめえが悪いって責めるときがあっても、俺だけは喜三太は悪くないって言ってやる。おめえが変なやつだっていって笑っても、俺はそういうおめえがいっちゃん好きだべって言ってやる。人生に辛いことはいろいろあって、俺はどんなにがんばってもおめえからそういうもん全部とっぱらってやることはできねえ。けど、俺は最後までおめえの味方だ。なにがあってもおめえを泣かせるような真似だけはしねえ。俺のいのちにかけて約束する。この約束を、ずっと覚えててくれな」<br />
からめた指の感触まで覚えている。そのくらい、与四郎はなんども喜三太に誓ってくれた。けれども喜三太は、このとき、与四郎を疑っていた。<br />
「もしもし、」<br />
という声がかすかにふるえていた。それに気付いてか気付かずか、与四郎は<br />
「元気か」<br />
とたずねた。喜三太はその言葉だけで息がつまりそうだった。いつ、故郷に戻ってきたら結婚するぞといわれるかと気が気ではなくなった。与四郎が嫌いなわけでは決してない。結婚するのだって、早すぎるという気持ちはあるにせよ、嫌だという気持ちはまるでない。<br />
ない、はずだ。<br />
なのに喜三太は、与四郎から帰ってこいといわれるのを、ひどく恐れた。いっしょになるぞといわれたら、大声をあげてわめいてしまうだろうと思った。自分でもどうしてこんな気持ちになるのかわからなかった。頭が混乱してひどく苦しかった。<br />
「与四郎先輩、どうしてぼくに電話くれたの」<br />
ふるえた声でたずねたら、与四郎は少し黙ったあと、すこし不思議そうに<br />
「いや、ただ声が聞きたかっただけだ。元気してるかーって思ったんだ。今度の連休にでも帰ってこれんのか。久々におめえに会いてえ」<br />
会いたいといわれて、喜三太は、結婚のために必ず故郷に帰ってこいと念をおされているような気になった。<br />
「ちゃんと帰ります」<br />
という返事が、不自然にふるえた。勝手に涙がでてきて、喜三太はこぶしで乱暴にそれをぬぐった。なんで泣くんだ、ばか。かなしくないのに。与四郎せんぱいのこと、ちゃんと好きなのに。泣いたりしたらかわいそうだと思った。与四郎先輩がかわいそう。こんなによくしてくれるのに。婚約者ってだけで、こんなに親切にしてくれるのに。結婚したくないなんて思ったらばちがある。<br />
「喜三太、なにかあったんか」<br />
電話ごしの声が低くなった。なんにも、とあわてて否定した喜三太に、与四郎はいたわるような口調で語りかけた。<br />
「喜三太、俺はおめえの味方だ。元気だせ」<br />
その言葉のあんまり優しいのに、喜三太は今度こそ声をあげて泣いた。学校がつれえのか、腹がいてえのか、友達とけんかしたんか、といろいろたずねてくるのに構わず、受話機ごしで甘えるようにわんわん泣いた。与四郎は、最後には黙ってそれを聞いていてくれた。なんにもいわず、受話機を切らないで、でも受話機ごしにちゃんとそこにいて喜三太を受け止めてくれていた。受話機ごしの気配を感じながら、喜三太は、制服のスカートの裾をプリーツがぐしゃぐしゃになるくらいつよく握って、ある決心をした。</p>]]></content:encoded>
    <dc:subject>は組現パロ</dc:subject>
    <dc:date>2010-08-30T01:09:25+09:00</dc:date>
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    <title>083：雨垂れ</title>
    <description>土砂降りの夜だった。
雨でナイフが滑ってしまわぬように、手のひらとナイフを紐で結わえた。後ろから近づいて刺すだけで、それは終わった。あっけない最後だった。近づいて、声を掛ける。振り返ったところを、首を狙って切りかかれ。首は血がたくさん噴き出すから、雨の日の、夜にしろ。場所は海の近くがいい。血の匂い...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">土砂降りの夜だった。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">雨でナイフが滑ってしまわぬように、手のひらとナイフを紐で結わえた。後ろから近づいて刺すだけで、それは終わった。あっけない最後だった。近づいて、声を掛ける。振り返ったところを、首を狙って切りかかれ。首は血がたくさん噴き出すから、雨の日の、夜にしろ。場所は海の近くがいい。血の匂いがまだしも紛れる。それが、どこぞの小悪党から教えてもらった、&ldquo;ひとごろし&rdquo;の方法だった。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「敵討ちだなんて、古風だなあ」と、その男には笑われた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「どこかの時代劇みてえだ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「家族を殺された」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「理由は？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「理由？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知は顔をあげて男を見上げた。男はまばらに髭の生えた冴えない風体をしていた。痩せぎすで、黒光りする硬そうな皮膚が、彼の歳が見た目よりずっと老けていることを教えていた。けちけちしくちびた煙草を咥えて、男はナイフを研いでいた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「人が殺されるにゃあ、それなりの理由があるもんじゃないかねえ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「知らない。警察があいつを追わないと言ったから、理由はわからない」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「警察が追わない理由は？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「教えてもらえなかった」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知は、男の手から、研いだばかりのナイフを受け取った。それは初めて持つのに、妙に久々知の手になじんだ。男は、久々知の手のひらを上から包み込んで、それの握り方を教えた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「仇を見つけたら理由を聞くかい」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「･･･聞かない」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知の手のひらがぎゅっと強くナイフを握った。ぞっとするほど冷たい目で、虚空を睨んでいた。おっかないねえ、と男は茶化して笑ったが、久々知は自分のことだとは思わなかったから聞き流した。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「どうせ殺すんだから、そんなものを聞いても仕方がない」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">＊＊＊</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「ふつう、親が殺されたって悲しい悔しいって思うだけで、反対に殺し返してやろうとは思わないんじゃないかな」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「そうかな」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「もし思ったとしても、実行には移さないと思う」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">そうか、と久々知は思った。もう名前も忘れた、昔の友達との会話だ。まだ久々知が忍術学園に通う前の学校で、束の間知り合った。そう、友達というよりは、あれは知り合いだ。久々知は竹谷に出会うまで、「友達」というものを必要としなかったし、そのため、つくらなかった。そもそも友達というものがどういう関係のものを指すのかも、よくわからなかった。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知は物静かで、口数の少ない子どもだった。預けられた先でも、施設でも、学校でも、必要以上に人と交わることをしなかった。それでも疎まれたり苛められたりしなかったのは、彼が成績も運動も非常によくできた少年だったからだ。彼は周囲の平凡な才能の子どもたちから、羨望と尊敬の眼差しで容認された。彼はそういう状況を是とも否ともしなかった。ただ、自分は関係ないような素振りで、誰の世界においても存在感のない端っこの登場人物でいようとした。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">それを彼は努力によって為しえようとはしなかった。呼吸をするように、当然のこととしてそういう存在を目指した。その頃からすでに忍者としての才能を発揮していた。目立たぬように、誰の目にも留まらぬように、しかし並外れた知識と技術をもって、ひっそりと目的を遂行する。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">そんな彼がどうして&ldquo;知り合い&rdquo;とこんな会話をするに至ったかというと、兵助はもう忘れているが、少年から、</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「君のことをもっとよくわかりたい」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">といわれたからだった。兵助は問答のように、返事の代わりにある例え話をした。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「もし君の親が殺されたら、君はなんて思う？仕返しをしたいと思う？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">それから、兵助は言葉を続けた。「俺は、仕返しをしたいと思う。そういう人間なんだ。変かなあ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">兵助が、どうも自分と周囲は思考の在り方に崩しようのない断絶があるらしいと自覚したのはそのときだ。そのときから兵助は、努めて自分の思考を隠すことを考えた。本当の自分というのを気取らせないように心を砕いた。どうも、自分は変わり者らしい。変わりものだと知られたら、目立ってしまう。目立っては、いつか実行する敵討ちに支障が出る。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">＊＊＊</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">&nbsp;</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">土砂降りの夜だった。あの夜と同じだと思うだけで、身体が震えた。目の前に倒れているのは、でっかい狼だ。学園の周囲にしばしばあらわれていたやつで、誰かが餌付けしているに違いないって噂がたっていた。その死骸に取り縋って、同級生が泣いている。こっそり餌付けをしていたのは、そうか、こいつだったのか。名前をなんといったっけ、隣のクラスの、ええと、</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「はち！」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">別の生徒が、名前を呼んで雨の中走り寄ってきた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">兵助は、ああ、そうだった、と思い出す。竹谷八左ヱ門。動物好きの同級生。目がくりくりとでっかくて、よく笑う。明るくてみんなに優しいから、同級生に好かれている。世界がまるで違うなあと思って、兵助のほうでずっと避けてきた少年だった。理解ができないものは、馴れ合うのが難しい。必要なとき以外、関わり合わないのに限る。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「どうして殺したんだよ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">死骸を抱いたまま、静かに竹谷が問うた。黒ずんだ血が竹谷の服を濡らしても、彼はいっこうに気にしない様子で、まっすぐ久々知を見ている。久々知は、竹谷の静けさは烈しい怒りによるものかと思っていた。しかしその瞳には、怒りの炎はなかった。ただ真実を見極めようとするひたむきな誠実さだけがあった。久々知はこのとき、竹谷を恐ろしいと思った。彼は、相手に嘘をつかせない。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「邪魔だ、から」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知の言葉には、決定的に言葉が足りなかった。彼は、彼の今までの生き方のおかげで、哀しいまでに弁明が苦手だった。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「そんな理由ではちの狼を」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">責めるように言ったのは、竹谷の名を呼んだもうひとりの同級生だった。久々知は顔をあげて、その少年を睨みつけた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「&ldquo;そんな理由&rdquo;じゃない。野良を手懐けると、仲間を呼んでくる。通う動物が多くなると、怪しまれる。学園の所在が余所にばれる」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「馬鹿な！この狼を手懐けることは、学園長様の許可があってのことだ。何も知らないくせに、勝手なことをする。お前、この狼を躾けるまでにはちがどれだけの苦労をしたか、」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「いいんだ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷は、彼のために久々知を責める友の言葉を打ち切った。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「いいんだ。およその事情はわかった。お前のいうことももっともだ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷は狼の死骸を抱いて立ち上がる。久々知の切った腹から、内臓がこぼれていた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「だけど、それは殺さなくてはいけないことだったのか。他に方法はなかったのか」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷のまっすぐな瞳に見つめられて、久々知はしばらく逡巡したあと、力なく項垂れた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「それは、その通りだと思う。殺すのがてっとり早いと思ったのは、俺の短慮の表れだ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">弱弱しい言葉に、驚いたのはむしろ久々知を責め立てていた少年のほうだった。この優等生ならば、屁理屈をこねて自分を正当化してくるものだろうと思いこんでいた。どうする、と困惑したように竹谷を振り返ると、彼は死骸を愛おしそうに抱き寄せたまま、久々知に向かって微笑んでいた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「なあ、いのちは、ひとつだ。そして一度失えば決して帰ってこない。それは人間だって、動物だって、虫だって、みんないっしょだ。俺は、殺すのは、いちばん最後の手段だと思う。ほんとうにもうどうしようもなく他の方法がなくなってから、はじめて、覚悟を決めて、奪うべきものだと思うんだ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知は天を仰いだ。大粒の雨の一滴一滴が、鉄砲のように降り注いで久々知を痛めつけた。久々知の凛とした瞳からは、いつしか涙があふれていた。ひどく辛い、と久々知は思った。けれど、心は不思議と潤っていた。なにものも恨む気持ちにはならなかった。ただ広い荒涼感と静かな充足があった。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「竹谷、ごめん。お前の、大切ないのちを奪ってしまって」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷は力強く一度、頷いた。それから、久々知に向かって、「帰ろう」と言った。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「今夜はひどい雨だ。ここは、よく冷える」</div>]]></content:encoded>
    <dc:subject>現代版忍術学園</dc:subject>
    <dc:date>2010-08-24T14:29:26+09:00</dc:date>
    <dc:creator>No Name Ninja</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>No Name Ninja</dc:rights>
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  <item rdf:about="http://yoikowaruiko.blog.shinobi.jp/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E7%89%88%E5%BF%8D%E8%A1%93%E5%AD%A6%E5%9C%92/091%EF%BC%9A%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AC%E3%83%B3">
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    <title>091：サイレン</title>
    <description>現代版忍術学園です。


兵助の器用な手先が、りんごの皮さえも大根のかつらむきを思わせる薄さで剥いてゆく。するするとベッドテーブルの上の皿に下りてくるそれを、三郎がつまみ上げて、窓辺の光に透かした。「おお～世界が赤く見える」などといってはしゃいでいるのを、雷蔵が「やめなよ」と呆れ口調で窘めた。...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">現代版忍術学園です。<br />
<br />
<br />
兵助の器用な手先が、りんごの皮さえも大根のかつらむきを思わせる薄さで剥いてゆく。するするとベッドテーブルの上の皿に下りてくるそれを、三郎がつまみ上げて、窓辺の光に透かした。「おお～世界が赤く見える」などといってはしゃいでいるのを、雷蔵が「やめなよ」と呆れ口調で窘めた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「ハチ、」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">と声を掛けると、竹谷八左ヱ門がベッドに横たわったまま、あんぐりと大きな口を開けた。そこへ、久々知兵助が剥いたばかりのりんごでひとくち大に切ったのを、落とした。しゃりしゃりと黙ってりんごを嚥下する竹谷に、「美味いか」と訊ねる。竹谷が「ふぉう」と頬をふくらましたまま返事をした。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「それはよかった。今朝とれたばかりのりんごだそうだ。食堂のおばちゃんが食べさせてやれってもたせてくれた」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「悪いな、面倒かけちまって」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「気にするな」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「そうそう、俺たち、お前の見舞いって口実で街に降りてこれて役得よん♪」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">三郎らしい物言いに、竹谷は笑った。生真面目な久々知は当然癇に障ったらしく、言い返すことこそしないものの、三郎が「俺にもりんご」と腕を差し出すのに、わざと剥いていないままのりんごを手渡した。三郎は気にしないふうに、差し出されたりんごのまるごとに、しゃりりとかぶりつく。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「退院は三週間後だそうだから、それまではここでゆっくりしてろって。俺たちも週末ごとに見舞いに来るつもりだ。明日は学園長が見舞いに来られるそうだから」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「なんだか大事になっちまったなあ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「じゅうぶん大事だろう」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知は剥いたりんごを皿に並べて、これは雷蔵に手渡した。雷蔵は礼を言って、近くのパイプ椅子を持ち出して、腰かけた。枕元に近いベッドサイドの特等席は、久々知に占領されたままだ。彼は無意識にも、竹谷のそばを他に譲る気を持たないらしい。雷蔵は苦笑して、素直にその位置を久々知に譲った。指摘するのもやぶへびだろう。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷はベッドに横たわったまま、顔動かすのがせいぜいだ。全身打撲。肋骨のひびに、右手首、左大腿骨の骨折。病院で支給される簡易寝間着の下からは、全身に巻かれた痛々しいまでに真っ白な包帯がのぞいている。それでも、ショッピングモールの３階吹き抜けからふいに突き落とされて、これだけの怪我ですんでいることが幸運といえた。もちろん、実際は幸運でもなんでもなく、ひとえに竹谷が普段から訓練で身体と技術を鍛えていたことのたまものというだけの話なのだが。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「びっくりしたよ。日曜午後のショッピングモールだぜ？信じられないくらいの人混みの中で、えらい恥かいちまったぜ。目立っただろうなあ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「おうよ、ばっちり。これ、今日の朝刊。見るか？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">三郎が手渡した新聞は五紙。全国版から地元紙まで多様だったが、どれもそれなりの大きさで、&ldquo;男子高校生ショッピングモール落下事故&rdquo;を取り上げていた。記事によると、地元高校に通う男子学生が吹き抜けの柵にふざけて腰かけていたところ、誤って転倒したということになっているらしい。三郎がテレビをつけると、ちょうど昼のニュースにも取り上げられていて、「店側の安全管理のずさんさ」と「マナーを守らない若者による事故」をコメンテイターたちが口々に嘆いていた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「これじゃ俺があほみたいだな」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">情けない顔で呟く竹谷に、雷蔵が苦笑いしてフォローを入れた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「学園長先生が直々に手をまわしてくださったんだ。誰かに突き飛ばされて落下、ってほうがより大騒ぎになるだろう。理不尽だろうけどさ、ハチがこんな馬鹿なことするやつじゃないって、学園のみんなはちゃんとわかってるよ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知は相変わらずの無表情でりんごを剥き続けている。三郎が竹谷の横たわるベッドサイドに腰を下ろした。三郎の体重を受け止めたスプリングがわずかに揺れて、その振動に竹谷が顔を歪める。久々知が顔もあげずに「三郎、降りろ」と言った。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「仕方ないだろ。お前がずっとそこを退かないから」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知は初めて顔をあげて、不思議そうに首を傾げる。三郎はうんざりした表情で、雷蔵に視線を送った。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「見たあ？無意識だよこいつ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">雷蔵は苦笑を返すだけにとどめた。どうせ、久々知はどれだけ言ったってよく理解できないだろう。三郎が、竹谷のために剥かれたりんごをひとくち摘む。咀嚼しながら、言葉を発した。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「ハチを突き飛ばしたやつの顔は見なかったのか」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「見なかった。周囲にいたやつの顔はある程度覚えているけどさ、本当にたくさんいたんだ。俺を突き飛ばせるぐらいだから、ある程度力のある男だろう。それでも、家族連れだろ、カップルに、男ばっかり四、五人でつるんで動いていたやつもいるし・・・。俺も目の前で赤ん坊が落っこちると思ってそっちにばかり意識を集中してたからさ、隙をつかれたよ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「赤ん坊は罠だね。赤ん坊は落ちなかったっていうしさ。ハチの気を逸らせるためにやったことだろうね」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「不逞ことしやがる」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">三郎は息巻いたが、竹谷は、「ああ、そう」と嬉しそうに頷いた。「よかった、じゃあ赤ん坊は無事だったんだな。びっくりしたぜ。俺ならともかく、赤ん坊が落ちたんだったら絶対助からないしさ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷は、吹き抜けから赤ん坊を落とそうとしている母親の姿を見たのだという。それが自分に対するおとりであったと聞いて、心の底から安堵した。その姿を、３人の同級生たちは、「竹谷らしい」と思って苦笑した。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「ハチ、りんご」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知が、３個目のりんごを皿に並べて竹谷に差し出す。「おう」と受け取った竹谷は、見舞いの果物籠から４個目を取り上げた久々知を見て、「俺、もう食えないかも」とストップを出した。久々知は例の無表情で、「剥かせてくれよ」と返す。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「剥いてでもいないと、平静を保てそうにないんだ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「おう？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">雷蔵が立ち上がった。「りんごばっかりも飽きるんじゃないかな。兵助、下行ってなんか買ってこようよ。ハチ、なんかリクエストある？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「あっ、じゃあ、ジャンプ買ってきて」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「その身体で読めるのかよ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「俺をなめんな？見舞いに来てくれた奴らに朗読してもらうんだよ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">ぎゃははっ、と三郎と竹谷が笑い合う。三郎が振り返って、明るく「俺、コーラ」と声をあげた。それから、立ち上がった久々知に、軽い口調のまま「兵助、それ置いてけ。善良な市民のみなさんがびっくりするだろうが」と注意した。久々知が気付かなかった、とばかりに己の手元を見た。右手には、しっかり果物ナイフが握られている。雷蔵がにっこり微笑んだまま、久々知の手からそれを取り上げてベッドボードに置いた。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「じゃあ、行ってくる。兵助、行こう」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">久々知の右手をぎゅっと握り、引っ張るように病室から連れ出していく。三郎が、久々知の座っていた場所に腰かけると、声をあげて笑った。茶化すように竹谷を見る。そういう、三郎特有の笑顔を浮かべると、彼は何者に変装していても、酷薄な狐のように見える。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「あいつ、表情こそ変わらないものの、ブチギレてる。学園でもあいつ押さえるの苦労してんだぜ、俺たち」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「ううん」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷は喉の奥で唸るばかりだった。久々知は、大切なものをあまりつくらない代わりに、一度心を許すと何処までも深入りする。命に代えても大切にしようとする。その数少ない相手が竹谷だった。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「お前を狙った相手の捕縛を、学園長から仰せつかっている」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「久々知も？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「いや、あいつは暴走するだろうからって、おあずけ。だけど勝手に動くだろ。あいつより先に見つけてとっつかまえないと、相手の命がないよ。だから、結構気張らないとって、焦ってんのよ、俺も。犯人の手がかりは？」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「･･･ある」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">竹谷は低声で囁くように言った。三郎がそっと竹谷の口もとに耳を寄せる。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「はっちゃんを使ってマーキングしてある。孫兵なら扱えると思う。学園に帰ったらはっちゃんを渡してくれ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「ん」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">三郎は頷き、それから、「で、はっちゃんっつーのはなんなんだい？」と竹谷を見た。竹谷は自分の寝間着のあわせをそっと開いた。ブウゥンと嫌な羽音を出して一匹の蜂が、三郎の頭上を旋回した。</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「蜂かよッ。刺したりしないだろうな」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「大丈夫。はっちゃんは卵寄生蜂だから、芋虫の体内に卵を産み付けるだけで、あとはいたって温厚な蜂だ」</div>
<div style="margin: 0mm 0mm 0pt">「なんだかぞっとしねえんですけど、その説明」<br />
<br />
<br />
病院の１階にある購買までは、わざと階段で行った。<br />
「落ち着いて、兵助」<br />
久々知よりも一歩先を行く雷蔵が、彼に背中を向けたまま静かに声を出した。<br />
「うん」<br />
久々知の返事は、端から聞く限りでは、ずいぶんと落ち着いているようである。けれど、彼の右手が小刻みに震えていることは、それを握っている雷蔵にしかわからなかった。<br />
「自分を制御しきれない。理性では、理解しているつもりなんだ。感情の整理もできている、つもりだ。だけど、震えが止まらない。今犯人を見つけたら、たぶん、殺してしまうと思う」<br />
「忍者と暗殺者は違うよ、兵助」<br />
「わかってる。わかってる、つもり、だ・・・」<br />
兵助の言葉はずいぶんと弱々しかった。大切なものなんか、つくるんじゃなかった。心のよりどころなんて、やっぱり持つものじゃなかった。そんな久々知の慟哭と間違った後悔が聞こえてきそうで、雷蔵は、振り返って久々知の頬を両手の平でバシンと打った。<br />
「勝手をして、お前が怪我をしたら、はちが悲しむ。はちを悲しませるのは兵助の本意じゃないだろう」<br />
兵助がしょんぼりとした様子で肩を落とし、大きく頷いた。これは兵助が乗り越えるべき心の弱さで、仇を討っても何をしても、解消されるものではない。兵助自身が飲み込んで成長しないといけない類のものだ。そこに介入できない自分を、雷蔵はもどかしく感じる。だけど、己を成長させるのはいつだって、最後には自分自身だ。そこには誰も踏み入れない。周囲はただ見守るだけだ。<br />
「俺は弱いな。早く強くなりたいよ」<br />
五年のなかでも抜きんでた成績を保持する優等生徒が、悲嘆に暮れたように長く息を吐いた。雷蔵は息を吐いて、「あせりなさんな、みんなそうだよ」と笑った。</div>]]></content:encoded>
    <dc:subject>現代版忍術学園</dc:subject>
    <dc:date>2010-08-23T20:34:15+09:00</dc:date>
    <dc:creator>No Name Ninja</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>No Name Ninja</dc:rights>
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  <item rdf:about="http://yoikowaruiko.blog.shinobi.jp/%E4%BC%8A%E5%8A%A9%E5%8F%97%E3%81%91/%E3%81%97%E3%81%82%E3%82%8F%E3%81%9B%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AA">
    <link>http://yoikowaruiko.blog.shinobi.jp/%E4%BC%8A%E5%8A%A9%E5%8F%97%E3%81%91/%E3%81%97%E3%81%82%E3%82%8F%E3%81%9B%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AA</link>
    <title>しあわせのはな</title>
    <description>伊助は幸せにならないと駄目だ。


学級委員長委員会で遠征に行った帰りに摘んできたのだと言って、庄左ヱ門からなんの気なしに手渡された花を、伊助はことのほか喜んで、小さな壺に活けて机の上に飾った。文机の上で紫色に存在を主張するその小さな花は、確かにかわいらしかったが、庄左ヱ門は少々ばつの悪い思い...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<p>伊助は幸せにならないと駄目だ。<br />
<br />
<br />
学級委員長委員会で遠征に行った帰りに摘んできたのだと言って、庄左ヱ門からなんの気なしに手渡された花を、伊助はことのほか喜んで、小さな壺に活けて机の上に飾った。文机の上で紫色に存在を主張するその小さな花は、確かにかわいらしかったが、庄左ヱ門は少々ばつの悪い思いを味わった。なぜならそれは、本来美しさを愛でられるための花ではなかったからだ。本来は、腹痛の薬なのだ。茎を煎じて飲むと、苦いがよく効く。最近腹痛に悩まされているということをきいた庄左ヱ門は、薬のつもりでそれを摘んできたのだった。<br />
だから、伊助が嬉しそうにその花を眺めているのを見るたびに、自分の気のきかなさを思って情けなくなってくるのだった。そうなのか、伊助は花が欲しかったのか。そんな小さな花をそんなに喜ぶなんてなんだか悪いことをした。わかっていたなら、もっと派手で、本当に綺麗な愛でられるために咲いた花を採ってきたのに。<br />
よくよく見ないと花なのかつぼみなのかもわからないような、小指の先ほどの小さな小さな花を、あんなに嬉しそうに眺めたりして。<br />
「庄ちゃん、この花きれいだねえ」<br />
「あ、そ、そうかな」<br />
「わざわざ摘んできてくれてありがとうね」<br />
「いや～・・・あははっ。伊助が気に入ってくれて何よりだよ」<br />
庄左ヱ門は苦しい笑みを浮かべながら、今更、それは腹痛の薬なんだよとは言えず、苦しげな笑みを浮かべて、知らないふりを突き通すことに決めた。僕は、この花がきれいだから摘んできたのだ。僕もこれが腹痛の薬だなんて知らなかった。よし、これで行こう！<br />
「庄ちゃん、この花なんていうのかな」<br />
「さあ～・・・？」<br />
「庄ちゃんでも知らないものがあるんだねえ」<br />
伊助はびっくりしたように庄左ヱ門を見つめた。庄左ヱ門は少しむっとしたように、僕だって知らないものぐらいあるよ、と窘めた。<br />
「ごめん。でもさ、庄ちゃんなら、知らないまま渡すんじゃなくて、名前を調べてから渡してくれそうだなって思ってたから」<br />
さすが伊助だ。庄左ヱ門は内心で唸る。確かに、はじめから&rdquo;花&rdquo;として手渡すつもりだったなら、ちゃんとその正体を明らかにしてから渡したろう。<br />
「じゃあ、僕で調べてみるね」<br />
「えっ、」<br />
庄左ヱ門は目を丸くした。そして、慌てた声を出した。<br />
「いや、やめなよ。いいよ、知らないままでいいよ」<br />
「え？」<br />
「いや、あの、名前がわからないままってほうが、その、神秘的な感じがしていいかなって思うんだ・・・！」<br />
「そうかな」<br />
「そ、そうだよ！」<br />
「そうかもね」<br />
「そうそう、そうだってば、絶対！」<br />
庄左ヱ門はぎこちない笑みでなんども言葉を繰り返した。僕は馬鹿だ、と内心で何度も何度も繰り返し己を罵りながら。<br />
ところがその三日後ぐらいに、伊助の机の上から花は姿を消してしまった。<br />
庄左ヱ門が行方を尋ねると、伊助は、申し訳なさそうに、<br />
「ああ、あのね、あれ枯れちゃったんだ。ごめんね」<br />
と謝った。庄左ヱ門は「そっか。残念だったね。でも、伊助のせいじゃないよ」と声をかけながら、腑に落ちない思いを抱いていた。あの植物は生命力が強くて、水をやっている限りはそう簡単に枯れるようなものでもないのだ。扱いが悪くったって、二週間はゆうに生きている。そんな花が、あの気遣い屋の伊助のもとで一週間も経たずに枯れるものだろうか。<br />
庄左ヱ門はつい不思議がって、<br />
「でもおかしいなあ。あの花はね、毒消しの万能薬で、保存が利くんだよ。何をしないでも長い間生きたままだから、生薬としてもとても便利でね」<br />
「そうなんだ」<br />
「うん。今度は、もっと長生きする花を探してもってくるからね」<br />
「ありがとう庄ちゃん」<br />
伊助はとても嬉しそうに微笑んでくれたものだから、庄左ヱ門は自分の嘘を自分で明かしてしまったことに気付かないままだった。<br />
夜になってしんべヱが食べ過ぎから来る腹痛に襲われた。一年の長屋がどたばたと大騒ぎするなか、伊助は自分の引き出しから、煎った状態の植物を取り出した。<br />
「僕、これ刻んでくる。庄ちゃん、お茶沸かしといてくれる！？」<br />
「うん」<br />
庄左ヱ門は、その茎が、自分がもってきたあの植物だと気付いていた。なぜあれが、煎った状態で伊助のもとにあるのだろう。しんべヱは、それを飲んでまもなく回復した。伊助はほっとした様子で、「あれって、ほんとに腹痛によく効くんだねえ」と笑顔で庄左ヱ門に話しかけた。庄左ヱ門が不可解な表情で、いつから知っていたのかと問うと、伊助は、「もらった次の日から」とはにかんだように笑った。<br />
「庄ちゃんから花をもらえて嬉しくって、その日のうちに調べたんだ。そしたら、図書館にたまたま善法寺先輩がいてね、それは観賞用の花じゃないよって教えてくれたんだよ。本当は腹痛に効くんだってね。庄ちゃんほんとは知ってたんでしょ？僕、なんだか気を遣わせちゃったみたいでごめんね」<br />
「あ、いや・・・」<br />
「庄ちゃん、僕の腹痛を気にかけててくれたんだ。うれしいな、ありがとうね」<br />
「あ、ううん。今度また、摘んでくるよ。腹痛に効く植物も、見て楽しいきれいな花も」<br />
「うん、ありがと」<br />
伊助はにっこりと美しく微笑んだ。庄左ヱ門は、かなわないなあと思った。たぶん、僕は、このこには一生敵わないんだろうな。だけど、そういう相手を得るってとっても幸せなことだってじいちゃんから聞いたことがある。僕幸せものだなあ、と思って、庄左ヱ門も同じように美しく微笑った。</p>]]></content:encoded>
    <dc:subject>伊助受け</dc:subject>
    <dc:date>2009-10-10T23:49:33+09:00</dc:date>
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    <title>一番綺麗な水③</title>
    <description>富松作兵衛は豪快に落ちてくる滝に全身を打たせながら、もう一刻ほども岩の上から動かない。水浴びにはまだ早すぎる早春に、平然と褌ひとつで座禅を組んでいる。苦悶に満ちているのは表情で、眉間の辺りにぎゅっと皺が寄り、ひどく何かに苦悩している様子である。しかしそれは、水の冷たさが原因ではない。彼は、彼の精神と...</description>
    <content:encoded><![CDATA[富松作兵衛は豪快に落ちてくる滝に全身を打たせながら、もう一刻ほども岩の上から動かない。水浴びにはまだ早すぎる早春に、平然と褌ひとつで座禅を組んでいる。苦悶に満ちているのは表情で、眉間の辺りにぎゅっと皺が寄り、ひどく何かに苦悩している様子である。しかしそれは、水の冷たさが原因ではない。彼は、彼の精神と闘っているのだ。<br />
「ちくしょ～・・・なんだってこんなことに」<br />
両手で印を結びながら、ぶつぶつと作兵衛は何ごとかを呟いている。<br />
「やべえぞ～。こりゃ本格的にやべえ事態になっちまった～。どうする俺、どうするよ！？」<br />
冷たい滝の水は、彼を責め立てるように殴りつけてくる。その痛さが、今の作兵衛には救いだった。もともと彼の弱点は、その思いこみの激しさにある。戦場にあって、被害妄想にも近い思いこみは、冷静な判断を遠ざけ、勝てるものを勝てなくさせる。作兵衛はなんとしてでもこの戦を勝利に持って行かなくてはならい。ともすれば弱気になる思考を、滝が叩き直してくれるのはありがたかった。<br />
しかし、それにしても、<br />
「やべえ～」<br />
状況である。<br />
滝のすぐ脇の林が、ざわりと揺れた。作兵衛は静かに目を開く。それを合図にして、囁くような声が聞こえた。<br />
「イヌイ、ただいま帰りましてございまする」<br />
「おう。それで、村の動きはどうだった」<br />
「竹谷一族と、蠱遣いの村は手を組みました」<br />
「やっぱりな。それで、次はどう出る」<br />
「次攻められるまでは動かずを守るようにござりまする」<br />
「さすが、ふたりだ。賢明な判断だな。で、食満先ぱ・・・頭領のご判断は？」<br />
「明日後蠱遣いの村を焼けとのご指示にござります」<br />
作兵衛は慌てて立ち上がった。目を見開いて林を見た。よもや、よもやと思っていたが！<br />
「そりゃマジか！？」<br />
思わず叫ぶが、返事はない。返事がないのが肯定の証だ。作兵衛はその場で地団駄を踏んだ。<br />
「先輩駄目だ！！」<br />
作兵衛のいる場所が、食満のいる城から遠く離れていることも忘れて、作兵衛は声を張り上げた。どうしようもないことを強請る、頑是無い子どもの気分だった。<br />
「駄目だ、先輩！戦になるッ！！戦になったら、あんたか孫兵たちの、どっちかが死んじまうだぞッッ！！！」<br />
<br />
<br />
心労がかさんで疲れているのだろう。村に身を置いて3日ほど経ったある日、とうとう竹谷は熱を出して床に伏してしまった。次に向こうが手を出してくるまでは、こちらからは何もしないというのは、竹谷の判断だった。孫兵は、竹谷の案を聞くと、「従います」とだけ言った。<br />
「戦にはしたくない」<br />
竹谷は天井を見つめて言った。熱で瞳がきらきらと潤んでいる。頬が真っ赤に染まって、ふだんよりよほど女じみているのがおかしかった。孫兵は手ずから濡れ布巾を絞って、竹谷の額にのせた。<br />
「戦にすれば、圧倒的にこちらの分が悪い。こちらの兵力はわずかすぎる」<br />
「正攻法でぶつかり合えばまず勝ち目はありません。あちらの攻撃に耐えつつ、裏で交渉を勧めて和平にもってゆくのが一番でしょう」<br />
「ああ、その通りだ・・・」<br />
竹谷は息を吐くように頷き、それから、気弱げに「和平交渉か」と呟いた。<br />
「そんなことが可能だろうか」<br />
それは独り言のように聞こえた。孫兵はどう答えるべきか思案して、ふと、屋敷から庭を見た。竹谷の心をなぐさめる為に開かれた障子からは、美しい自然の風景が見えている。早咲きの花に、ふわふわと羽化したての蝶が舞う。ときどき、具合を伺うように部屋に入ってきては、竹谷の指先や、孫兵の肩の辺りを飛び回るのだった。庭の隅では、どこからやってきたのだか、猪や猿や野犬が、じっと部屋の守りをするように目を閉じて丸くなっているのだった。おそらくは、竹谷を見えざる敵から守ろうとしているのだろう。虫たちや動物たちに見守られたこの部屋の中で、ふたりの人間が静かに会話しているのは、あまりに神秘的で、あまりに自然で、どこか儚げな光景だった。<br />
「先輩の一族も、僕の村も、特定の主をもっているわけではない。雇われればどこにだって味方する。それを、殲滅させようというのは、どうにも解せぬことです。要求をつっぱねて腹が立ったとはいえ、それだけで戦を仕掛けてくるにはあまりに傲慢で、リスクの高い出方だと思います。とうてい、我らの力を必要としている諸侯も黙っておりますまいに」<br />
「俺が悪いんだ」<br />
竹谷は苦しそうに眉をひそめた。ふっ、と息を吐いて目を閉じる。孫兵の視線を怖がってでもいるかのようだった。<br />
「あちらの抱える忍者隊の首領が誰かはお前も知っているだろう」<br />
「食満留三郎」<br />
「その通り。・・・俺は、食満殿の謀反に協力しようとした」<br />
孫兵は、目を細めてつい、と顔を背けた。責める視線になりそうなのを、竹谷から反らした。恋情故にとでも言うのか、馬鹿なことを。内心で責めた。<br />
「が、結果は失敗。俺は食満殿の謀反計画の罪を被り、彼をたぶらかした危険な女として、こうして村を焼かれた」<br />
「それで、その人は今どうしているんです」<br />
「おそらく・・・忍者隊に戻っていると思う。謀反の意がなかったことを見せるためには、大人しく命を聞いて俺の村を焼くしかあるまい」<br />
孫兵は黙って立ち上がった。竹谷は出て行くのかと思ったが、彼は障子を閉めると、また竹谷のほうへ戻ってきて腰を下ろした。<br />
「あなたは馬鹿です」<br />
まっすぐな視線が竹谷を見ていた。そこからは、あいかわずなんの感情も読み取れはしなかった。ただ、美しい純度の高い琥珀の瞳が、竹谷を映している。吸い込まれそうとはこういう気持ちかと、竹谷は思った。我が身の恥とでも言うべき話をしているのに、不思議と目が離せなかった。<br />
「孫兵」<br />
竹谷の瞳が不意に揺れた。彼女も与り知らぬところで、勝手に涙がこぼれた。<br />
「孫兵、」<br />
何かを言うべきだと思ったが、何を言うべきなのかさっぱりわからなかった。おずおずと伸ばした手を、孫兵の白い血色の悪いような腕が取った。その腕はひやりと冷たく、竹谷は驚いて、少し目を見張った。ぽろ、とたまっていた涙がこぼれ落ちた。<br />
「孫兵、情けないのを承知で頼む。俺の村を助けてくれ」<br />
開いた唇はみっともなく震えて、頼りない声でようやく縋った。孫兵は竹谷の涙を指で拭うと、そのままその唇をそっと吸った。竹谷のまんまるに見開いた瞳に、自分の姿だけが映っているのを見て口元に笑みを刷いた。<br />
「先輩、僕はあなたを見放したりしません。あなたのことは僕が守る」<br />
「・・・孫、兵・・・？」<br />
「僕はあなたと結婚しないといったけれど、それはあなたのことが嫌いだからではない。他に好きな女がいるからでもない」<br />
孫兵がまっすぐ竹谷を見ている。竹谷は息を呑んだ。<br />
「あなたが好きだからです」<br />
孫兵はにっこりと微笑みを浮かべる。学園にいたころから、虫以外には竹谷ぐらいにしか満面の笑みを浮かべない孫兵だった。<br />
「あなたが好きです」<br />
竹谷の顔が真っ赤に染まり、それから、蒼くなった。<br />
耳元で、いつかの食満の声がしている。<br />
（・・・ハチ、必ず迎えに行く）<br />
少し先になるかもしれない。だが、必ず迎えに行く。<br />
竹谷は、声の出し方も忘れて、ただただ目の前の愛に戦くように身体を震わせていた。<br />
<br />
<br />
なんだかメロドラマ。<br />
<br />]]></content:encoded>
    <dc:subject>未選択</dc:subject>
    <dc:date>2009-10-08T21:24:52+09:00</dc:date>
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    <title>一番綺麗な水②</title>
    <description>
男が男に襲われているのを、惚れた女性に見られるほど屈辱的なことって他にあるだろうか。
僕はその時、絶対死のう、と思った。死ぬ以外に道はないとさえ思った。男に無理矢理のしかかられて乱暴を働かれんとするのは・・・まだ、いい。そんなものは犬にでも噛まれそうになったと思えばそれで終わることだ。大変矜持...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<br />
男が男に襲われているのを、惚れた女性に見られるほど屈辱的なことって他にあるだろうか。<br />
僕はその時、絶対死のう、と思った。死ぬ以外に道はないとさえ思った。男に無理矢理のしかかられて乱暴を働かれんとするのは・・・まだ、いい。そんなものは犬にでも噛まれそうになったと思えばそれで終わることだ。大変矜持を傷つけられることではあるけれども、回復の方法がないわけではない。例えば相手を殺してやるとか。三倍の恥辱を味わわせることで後悔させてやるとか。<br />
閉鎖空間に若い男が押し込められている忍術学園では、時々そういう男同士の性的な悲劇が起こる。中にはショックを受けて学園を辞めるものまで出るというが、僕はそこまでの気持ちにはなれない。第一、最後まで手を出させてしまったのなら、それは自分の弱さが原因であろうし、そもそもこんなくだらないことにまともにショックを受けるのがもったいない。<br />
だから僕は、そいつに薬を盛られて押し倒されたときだって、それほどの動揺は受けなかったし、どうやってこの場を逃げようかとかこの薬はいつまで効くんだとか、こいつにどうやって仕返しをしてやったらいいだろうかとか、そういうことを冷えた頭で考えていた。<br />
だけど、誰も訪れないはずの納屋の扉があいて、呆然とした顔で僕を見つめる竹谷先輩を見てしまったとき、僕は逆上した。死ぬしかない、ひどい恥辱を受けた、と頭が真っ白になり、それから全身が熱くなり、勝手に涙がこぼれた。僕がぽろぽろ泣き出したのを見て、先輩はようやく我に返ったようで、僕にのしかかる男の後頭部に手刀をくれてやって、僕を助け出してくれた。<br />
僕を抱きかかえてくれた先輩は、身体が弛緩している所為で声も出せずただ泣いている僕を、少し困ったように見遣ってから、ぎゅっと抱きしめた。先輩からは、よく晴れた日のあおい草いきれの匂いがした。<br />
「よしよし、怖かったよな」<br />
幼い子どもに言い聞かせるみたいな先輩の言葉がおかしかった。薬で麻痺していなかったら、きっと笑ってしまっていたと思う。先輩は僕を抱きしめながら、<br />
「こんなことする奴は最低だよ」<br />
と呟いた。たとえ極悪人であっても、滅多に人を悪くいわない先輩だったので、意外に覚えてよく覚えている。その時僕は、先輩はとても潔癖な人なのだと知った。<br />
「こんな汚らわしいこと、」<br />
と憤ったまま呟く先輩の、その美しい張りつめた瞳。ああ、先輩は、こんな場所にあっても心の中に汚いものをすまわせることはないのだなあ。僕はその時、この人は、この世の中で一番綺麗な人だと思った。<br />
僕はこの人が好きだ。<br />
<br />
<br />
先輩は、僕の言葉を聞いて驚いたみたいに目を丸くした。先輩の瞳は、赤茶色をしている。それが光に透けてきらきらして綺麗だった。僕は、もう一度言葉を繰り返した。<br />
「僕は先輩とは結婚しません」<br />
先輩は、喉を引きつらせて、ハッ、と息を吐いた。長くしなやかな指が、僕の裾をすがりつくみたいに握りしめた。<br />
「そんなの困る」<br />
「先輩、」<br />
僕はなだめるように先輩の手の甲に僕の手を重ねた。けれど先輩は、思い詰めたように僕を見つめる。<br />
「お願いだ、孫兵。かたちばかりでいい。お前に好いた女がいるなら、この一件が片付けば俺はどうにでもなろう。孫兵、お前しかいないんだ。俺の村を救うと思って、な、どうか頼む。正直、今回の件は俺の力だけじゃどうにもならん。だが、このまま村が消えていくのだけは阻止していかなければならん。お前も、当主の息子ならわかるだろう。な、頼む。この通りだ。俺と結婚しておくれ」<br />
先輩は両手をついて、額を床に押しつけて懇願した。僕はそれを見たくなくて、慌てて先輩の横に移動して、先輩の腕をとった。<br />
「先輩、落ち着いて。大丈夫です。僕はあなたを突き放したりしない。僕の村は総勢であなたを助ける。僕がいいたいのは、つまり、あなたは僕と結婚なんかしなくてもいいということなんです。僕の村は昔からあなた方の村と深い関わりがあった。同盟をするのに、今更証が要りますか。もうしそうでも、先輩、あなたがそんなことをしなくてもいい。僕の身内を人質としてそちらに渡しましょうか。それとも、僕の村の秘伝の巻物をあなたにお見せしようか。他に方法なら幾らでもある。あなたが悲しむ方法で、僕は同盟を結びたくないんです」<br />
先輩の思い詰めたような瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。僕は満足だった。<br />
「先輩、大変でしたね。もう大丈夫ですよ。先輩はひとりではないですからね」<br />
「まごへ・・・」<br />
「先輩が悲しそうだと僕まで泣きそうになる。笑ってください」<br />
「ばか、これは、うれし涙だ」<br />
先輩は慌てて鼻をすすって、強く目を擦った。顔の辺りが真っ赤になって、かわいらしかった。僕は満足だった。そう、先輩が僕のお嫁さんにならなくても。こんな方法で先輩が僕のものになっても、僕は何も嬉しくない。先輩は顔を真っ赤にして、僕に笑ってくれた。<br />
「ああよかった、孫兵、ありがとう。なんだか急に心配事が無くなったような心地だ。俺の村はたぶん、大丈夫な気がする」<br />
「気がするんじゃなくて、大丈夫なんですよ」<br />
「ありがとう孫兵」<br />
僕も微笑む。先輩はやっぱり綺麗だ、と思いながら。<br />
<br />
<br />
おばばに同盟を組んだことを報告しようと廊下を行くと、渡りのところで、おばばの侍女のあやめが僕を待ちかまえていた。僕に向かって膝をつく。あやめは口がきけないが、そのかわり記憶力がとてもいい。一度見たもの、聞いたものを生涯忘れない。<br />
「あやめ、お前聞いていたな」<br />
あやめはこっくりと頷いた。<br />
「なら話は早い。そういうことになった。あやめ、お前、僕の頼みを聞いてくれるかい」<br />
あやめはまたこくりと頷く。はじめから、僕のお遣い用にばば様が寄越してくれたのだろう。ばば様は&rdquo;遠耳&rdquo;の持ち主だから、わざわざあやめを寄越さなくても、別の部屋からだって僕たちのやりとりは聞けたはずだった。<br />
「人を探して欲しいんだ」<br />
あやめは黙って僕の言葉を待っている。<br />
僕は笑いそうになるのを噛み殺しながら言葉を継ぐ。僕はいつだって、先輩のことが一番大切だ。先輩はいつまでも綺麗で気高くあらなければならない。僕が先輩を汚すなんてもってのほかだし、他の男だってそうだ。<br />
「とても重要な事だから、内密に。応援を使ってもいい。だけど、先輩にだけは知られてはいけない。食満留三郎という男を捜し出して欲しい。見つけたら、足のつかないように殺せ」<br />
<br />
<br />
孫兵悪役でもいいじゃなーい！]]></content:encoded>
    <dc:subject>竹谷</dc:subject>
    <dc:date>2009-10-04T18:09:18+09:00</dc:date>
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    <title>こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ32</title>
    <description>32.性悪女たち

ふたりはぼんやりと町を隔てている川にかかる橋の欄干に腰掛けている。むやみやたらと動き回るより、いっそじっと待っていたほうがよかろうというのは、滝夜叉丸の提案だった。彼は藤色の女装束の裾の辺りを女の仕草で弄くりながら、ジッと前を見つめている。だてに成績優秀なだけあって、こういう...</description>
    <content:encoded><![CDATA[32.性悪女たち<br />
<br />
ふたりはぼんやりと町を隔てている川にかかる橋の欄干に腰掛けている。むやみやたらと動き回るより、いっそじっと待っていたほうがよかろうというのは、滝夜叉丸の提案だった。彼は藤色の女装束の裾の辺りを女の仕草で弄くりながら、ジッと前を見つめている。だてに成績優秀なだけあって、こういう事態でも、小憎たらしいほど冷静だった。三木ヱ門のほうは、タカ丸についての報を聞いてからずっとそわそわを気急いでいて、平生でいられない。今も、気がつくと無意識に爪を噛み、脚を男仕草で大きく組んで滝夜叉丸に臑を叩かれた。<br />
「お前、ずいぶん冷静だな」<br />
三木ヱ門は噛みつくように呟いた。冷静さは忍者の第一信条で、喜ばしいことであるのだから、こんなふうに滝夜叉丸が冷血漢であるかのように責めるのは間違っている。頭では理解していても、心がなかなかついてこない。<br />
「別に、そうでもないさ」<br />
滝夜叉丸は往来の行き来を眺めながら淡泊に返す。<br />
「私だって怖がっている」<br />
「そう見えないぜ」<br />
「見せていないだけだ」<br />
滝夜叉丸は三木ヱ門を振り返った。ひたとあわせてくるその黒い瞳は、確かに思い詰めているように見える。三木ヱ門は頷いた。三郎の変装だとわかった今でも、先ほどのタカ丸の様子を思い出すと肝が冷える。三木ヱ門は怖がっている自分を押さえつけるように拳を握った。<br />
「なあ、私たちはちゃんと忍者になれるんだろうか」<br />
口に出すと、情けなく唇が震えた。怖い、と言ってはならない一言が口からついて出そうになる。怖いなら、学園をやめろ。誰もがそういうだろう。いったん退学を口に出した生徒を、ほとんどの場合学園の誰も引き留めようとしない。それは、冷淡なのではなく、優しいからだ。忍びにならないのなら、それが一番いい、と誰もが口に出さず伝えてくれる。これまでに学園を去った同級生は両手で足りぬほどいる。毎年、その数は増える。三木ヱ門はこれまでそれらの同級生たちを、まるで負け犬を見るような思いで見送ってきた。俺は、そんな挫折は決してしないと愚かな矜持で胸を張り続けてきた。<br />
自分はなんだかんだで学園に守られてきただけだ。<br />
今になってそうと気づく。三木ヱ門は、怖がっていた。初めて、死と隣り合わせで生きている時間を経験し、一分が1時間にも半日にも思える絶望に、心底疲れていた。<br />
有能な滝夜叉丸は笑うかもしれないと思った。彼は、<br />
「やめたくばやめろ。だが、私は忍びになるぞ。必ず為る」<br />
と強い言葉で三木ヱ門をつき離したが、その表情は淡泊で、静かで、三木ヱ門に同情的ですらあった。三木ヱ門は彼がこれほどまでに堅く自分の道を決めていることを不思議に感じた。ただの自信から来る決心とは違うようだった。<br />
「滝夜叉丸、お前、どうしてそれほどまでに忍びになりたい」<br />
「私にとっての光がこの道を歩いているから」<br />
「それって、」<br />
「三木ヱ門、喋りすぎだ。今は忍務中だぞ」<br />
三木ヱ門はム、と唇をとがらせて拗ねた。肝心なところでもっともなことを持ち出して有耶無耶にするなどと。<br />
「食えん奴だな」<br />
「馬鹿か、忍者が簡単に他人に食わせるものかよ。悔しければお前も私ほど優秀になって私を食ってみるのだな」<br />
ふふん、といつもの感じで鼻で笑われ、三木ヱ門は怒りながらもようやく恐怖心が少しぬぐい去られた気分を持った。滝夜叉丸は嫌な男だ。最低で最高のライバルだ。これが俺の半歩先を歩いている限り、俺もまたこの道から外れるものか、と心の内で誓う。何があっても、食らいついてでも、追いかけて追い越してやるのだ。<br />
ふと、ひとりの男がふたりの前に立ちはだかった。編み笠を深くかぶった、恰幅のよい大男だった。<br />
「女、身売りか」<br />
としゃがれた声が聞く。<br />
「人待ちですわ」<br />
滝夜叉丸がしおらしい様子で答えた。<br />
「誰を待っている」<br />
「・・・知り合いです」<br />
「信田の森で知り合うた男か。」<br />
滝夜叉丸と三木ヱ門は同時に顔を上げた。信田の森の暗号は、学園の者しか知り得ぬはずだ。このしゃがれ声の男に見覚えはなかったが、そもそも姿を隠すのが得手である忍者に、見覚えなどというものを頼りにして正体を判別するわけにもいかない。<br />
「いかにも、」<br />
と、慎重に滝夜叉丸は答えた。<br />
「あなたがその人ですの」<br />
「俺か？」<br />
男が編み笠を少し持ち上げる。頬に傷を持った、泥臭い顔立ちの男だった。<br />
「・・・そうだといったら？」<br />
「確認させていただいてもよろしい？」<br />
三木ヱ門が欄干から腰を上げて男にまっすぐ歩み寄った。若々しいすっきりとした美貌が、ばたくさい大男と向き合っている。それは端で見て釣り合いの取れない光景だった。三木ヱ門が微笑む。<br />
「私の好きな花をご存知でいらっしゃる」<br />
「さあて、な」<br />
「まあ、それじゃあなた偽物ね。滝子、」<br />
滝夜叉丸に視線を流すと、彼も細い身体を妖艶にしならせて立ち上がった。<br />
「ええ、そうね。三木子、この男、殺してしまいましょう」<br />
ふたりで顔を見合わせて美しく微笑みあう。しゃがれ声の男は、「葛の葉かな」と当てずっぽうを言った。信田の森と言えば、和歌を知っていればすぐに出てくる植物だ。ふたりの少女は、微笑みをやめて、同時に男を見上げた。<br />
「正解。お待ちしておりましたわ」<br />
「私たちにどうぞご指示を」<br />
男はにたりと笑った。まさか、こんなにわかりやすい暗号を、互いの確認の言葉にしているとは。やはり、卵は卵。優秀な忍びの養成機関であっても、まだまだひよっこだ。そうだな、と男は頷いた。<br />
「敵方から奪い返した巻物を確認したい。今持っているのは誰だ」<br />
「ああ、それならば好都合。私たちが持たされております」<br />
この返事に、男は内心でにっこりと笑った。まさか、こんなに都合よく事が運ぶとは！三木ヱ門が胸元から巻物をするりと取り出して、袖に隠しながら男に手渡した。<br />
「ここでは人目につきます故、あちらの柳陰ででもさっそくご確認を」<br />
「ああ、でかした」<br />
滝夜叉丸が先に立ち、男を誘導する。その後ろを、三木ヱ門がついてくる。男の後方から、こそりと囁いた。<br />
「先輩、私にご褒美をくださいましね」<br />
「褒美、」<br />
「惚けないで。忍務を終えたら可愛がってくださるとお聞きしております」<br />
「ああ、しかしな、俺にはまだ仕事がある」<br />
「まあ、ひどい、お約束が違うわ！」<br />
背中を叩こうとした三木ヱ門の細い手首を、男は素早い動きでがしりと掴んだ。ばしっと腕を叩かれて、アッ、と三木ヱ門が鋭い声を上げる。袖口から苦無が落ちた。<br />
「お前、俺を殺せると思ったか」<br />
にたりと口角を上げる男に、三木ヱ門は、まさか、と不敵に笑う。<br />
「殺すのは私じゃなくて」<br />
「私だよ」<br />
男の脇腹から、真っ赤な血が吹き出た。滝夜叉丸が血がかかるのを恐れて慌てて飛び退く。滝夜叉丸は男の腹から苦無を引き抜くと、男の大きな図体を川岸へ蹴り転がした。<br />
「真冬の水なら傷口が縮んでまだしも助かる可能性は高いだろう。私の優しさに感謝するのだな、木偶め」<br />
くつくつと意地悪そうに笑う横で、三木ヱ門もあっはっはっと高笑いする。<br />
「自分の助平を恨むんだな、醜男が」<br />
男はざんぶりと川に転げ落ち、ずんどこと流れ去っていく。それを意地悪くにたにたと笑って見送り、ふたりは道のほうを向いた。そうして、気配もなくひとりの男が立っているのに、肩を揺らせた。今度は若い男だった。<br />
「信田の森をご存知か」<br />
「・・・私たちの好きなお花をご存知？」<br />
「母子草」<br />
ふたりの少年は顔を見合わせる。<br />
「「お待ちしておりました、先輩ッ！！！」」<br />
ようやく見知った味方に出会えたという安心感から、ふたりは編み笠の男に抱きつく。男の編み笠が落ちて、久々知の苦い顔が表にあらわになった。<br />
「離れろ。平、田村」<br />
ぎゅうぎゅうと美女ふたりに抱きつかれて嫌な顔をする若い男に、道行く人が不思議な視線を投げつけていった。<br />]]></content:encoded>
    <dc:subject>長編</dc:subject>
    <dc:date>2009-09-27T16:45:31+09:00</dc:date>
    <dc:creator>No Name Ninja</dc:creator>
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    <dc:rights>No Name Ninja</dc:rights>
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    <title>一番綺麗な水①</title>
    <description>孫兵書こうとするとどこかヤンデレっぽくなるよな！
孫竹で竹谷女体化で食満竹でもある。そして自分勝手な設定が山ほどあるので注意です。

＊＊＊

いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた。
ねえ、だからあのときに言ったでしょう、先輩。僕の勘はよく当たるんだ。そう言ってみたかったけれど...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<p>孫兵書こうとするとどこかヤンデレっぽくなるよな！<br />
孫竹で竹谷女体化で食満竹でもある。そして自分勝手な設定が山ほどあるので注意です。<br />
<br />
＊＊＊<br />
<br />
いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた。<br />
ねえ、だからあのときに言ったでしょう、先輩。僕の勘はよく当たるんだ。そう言ってみたかったけれど、そんなことを言えば先輩は必ず悲しむから、僕はその言葉を飲み込んだ。最後に見たときよりも、先輩はずいぶん痩せたようだった。無理もない、今は特に、先輩も村を率いて大変なときだから、気苦労が多いのだろう。いたわしい。先輩は白無垢に似合わない、疲れたようなぼんやりした表情で、襖絵を見ていた。それは色とりどりの虫たちがいっぱいに戯れていて、少し離れたところから見ると、大輪の牡丹が咲き競っているようにも見える、僕の村の宝だった。<br />
「先輩、長旅ご苦労様でした」<br />
僕が庭から声をかけると、先輩はようやく僕の存在に気づいたらしく、のろのろと視線をこちらに寄越した。くすんだ顔色に、唇に刷かれた紅だけが、別の生き物みたいに真っ赤にぬらぬら光っていた。婚礼の着物を着てきたと聞いたときは驚いたが、それは実際に見てみると、僕が想像するよりずっと簡素だった。けれど、生地は上等のものを使っているのだろう、白い絹の着物に、下は唇と同じ濃紅を重ねている。学園にいるときはいつも高く結っていたぼさぼさの髪も、今日ばかりは椿油で丁寧に梳られ、背中に長く流されていた。<br />
「孫兵」<br />
ふ、と先輩は小さく息を吐くと、ふわりと笑った。<br />
「久しぶりだな」<br />
「はい、お久しぶりです。お変わりがないようで・・・と言いたいところですけれど、今日は随分と様変わりしておられる」<br />
僕の揶揄に、先輩は困ったように眉を下げて笑った。それから、畳に手をついて、丁寧に僕に頭を下げた。<br />
「不束者ですがお願いします。・・・まずはこうだよな」<br />
<br />
<br />
先輩の村が焼き払われたのは、一年前のことだ。先輩は学園を卒業したあと、村には戻らずにフリーの忍者として活躍していたらしい。先輩の村は技能者集団の集まりで（そういう村は結構多く、大概が村ごとどこかの殿様に雇われたりする）動物を操るのに長けていた。山奥で野生の生き物たちと共存しひっそりと暮らしている人たちだったが、ある領主の要請を突っぱねたために、村を焼かれた。苛烈な性質で有名な男だった。山ごと焼かれたので、動物たちも大勢死んだ。焼き出されて山を下りてきた人たちは、麓で待ち受けていた武士たちに、女子ども関係なしに切り捨てられた。生き残った数人たちは、先輩を惣領に担ぎ上げて、村を焼き払った領主と徹底抗戦することに決めた。先輩は村の惣領のひとり娘だったのだ。<br />
徹底抗戦のための同盟相手として、先輩の村は、僕の村を選んだ。僕の村は虫を扱うのを得意としていて、先輩の村とは昔から交流があった。僕も、まだ学園に入る前、ほんの子どもの頃に何度か先輩にあったことがある。とはいっても、その時は遠くから先輩を眺めるだけだったけれど。<br />
僕の村は、先輩の村を焼き払った領主とは、つかずはなれずの関係にあった。僕の父は―つまり、僕の村の惣領ということになるが―その男と深く関わりすぎないように、死ぬ間際まで細心の注意を払っていた。父が死んで僕が跡継ぎになるとすぐ、先輩の村から同盟の依頼状が来た。村は賛成と反対で割れた。結論を待つのに焦れた先輩の村が、先輩を同盟を事実上成立させるために、一方的に僕のもとへ先輩を送ってきた。<br />
これを娶れ。要らぬならば切って捨てよ。<br />
それが、先輩とともに送られてきた書状の内容だ。半強制の政略結婚だ。このやり方には、先輩の村への反発が強くなった。けれど、その一方で、同情心も色濃くなった。実際に先輩が来てみると、先輩は明るく気だてがよく人の心を掴むのが上手いために、誰も邪険に扱えなくなってしまったのだ。<br />
僕の育ての親であり、よき助言者でもあるばば様は、「お主の好きになされよ」と一言だけ言った。「それがどういう決定でも、我らはそれに従おう。」<br />
さて、先輩は村であつらわれたという花嫁姿で、僕の前に座っている。<br />
<br />
<br />
僕はすっと、こういう日が来るんじゃないかと思っていた。それは、まだ僕らが忍術学園にいた頃―先輩が先輩で、僕がただの後輩であった時からずっとだ。いつか先輩はきっと不幸になる。僕は確信にも近い予感をずっと抱いていた。先輩が、あの男の隣で幸せそうに笑っていたときからずっと。<br />
僕は先輩の元気がない本当の理由を知っていた。先輩は過酷な毎日に神経を磨り減らしてこんなに元気がないのではない。先輩はあの男と敵対関係になってしまったことをひどく気に病んでいるのだ。<br />
先輩の村を焼いた領主の抱える忍者隊。そこには、先輩が学園時代に恋人と慕った食満留三郎がいた。</p>]]></content:encoded>
    <dc:subject>竹谷</dc:subject>
    <dc:date>2009-09-21T22:55:17+09:00</dc:date>
    <dc:creator>No Name Ninja</dc:creator>
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