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リトル・バイ・リトル

30 宿題(伊助女体化)


夏休みに入ってから、毎日庄ちゃんと電話している。
そう話したら、乱太郎は、すごい、と大げさに驚いてみせて一言言った。
「すごいって、そうすごくもないんだよ」
伊助は昼飯の素麺を湯がきながら、首で携帯を挟み込みながら器用に会話を続けている。学園は寮生で、色んな場所から生徒たちは通ってきているから、夏休みになると途端に会いたくても会えない人が増える。だから、学園の生徒にとって電話の存在は非常に貴重だ。
「だって、毎日話してるなんて、恋人みたい」
「あはは、残念。そんなロマンチックなもんじゃないよ。あのね、宿題のわかんないところ聞いてるの」
夏休みがはじまって初日に、いきなり難しい問題にチャレンジした。これは、土井先生がスペシャル問題だぞと嬉しそうに言っていたやつで、解けたら今度の期末テストで5点追加してやると宣言した。きり丸が手を上げて、じゃあ期末が満点だったやつは105点ですかと尋ねたので、土井先生は鼻白んだ表情を浮かべて「そういう質問は一度でも満点を取ったやつがするもんだ」と言ったので、みんなで笑ったのだった。
どれくらい難しいのかと興味本位で問題を開いたら、シャーペンの活躍がまったくないままに15分がゆうに超えるほどの問題だった。どうしても解いてみたくなって、庄ちゃんに電話した。彼なら、絶対この問題に眼を通し終えていると思ったから。尋ねたら、やはり難しくて唸っているというので、ふたりして問題についてあれこれ一時間半も喋ってしまった。電話を切る頃になって、庄ちゃんが、解き方がわかったらまた電話するね、と言ったので、伊助はこれはチャンスと思って「あのね、それもいいけど、宿題でわからない問題があったらまたこうやって電話してもいい?」と強請ったのだった。
これは大変いい法だった。なにせ、庄ちゃんと喋れるうえに、いいわけづくりのために毎日勇んで宿題をこなすのだ。去年まで夏休み最終日ちかくまで宿題をないものとみなして放っておいたことを思えば、これはまったく充実した日々だと言えよう。そうして夜ごろになって、わからなかった問題と、くだらない世間話をして、寝る。
そうこうしているうちに、庄ちゃんが驚くべき提案をした。「もうすぐ宿題が終わりそうだ、後はあの難しい問題だけ」と告げた伊助に、
「あの問題、僕のうちに来ていっしょに解かない。そのほうが、電話で話しているより効率がいいしさ。どうかな、僕んちに泊まりにきなよ」
と言ったのだ。伊助はほんとに驚いた。だってまさか、庄ちゃんのうちにお泊りだなんて!?絶句する伊助に、庄ちゃんは、慌てて言い差した。
「あの、ちゃんとうちの家族がいるから大丈夫だよ。・・・いつもの仲の良さでつい簡単に提案しちゃってけど、よく考えたら女の子に対して、うちに泊まりにこいだなんてすごい提案しちゃったな。ごめんね、あの、無理だったら断ってくれてかまわないから」
「う、ううん、行く!」
勢い込んで伊助が答えると、受話器の向こうで、庄ちゃんがホッとしたみたいに息をついて笑うのがわかった。
「うちの家のあたり、観光名所もいくつかあるんだよ。伊助、京都の洛北って来たことある?」
「ううん、ない。市内しかない」
「そっか、じゃあ、案内するね。観光旅行だと思って気楽にきなよ」
電話を切ると、伊助は慌てて旅行鞄をクローゼットの奥から引っ張り出した。いくつかあるうちの一番かわいいものを選んだ。使い勝手なんて二の次だった。それから、クローゼットの服を次々引っ張り出しては吟味して、着ていく服を決めた。いつもジーンズばっかりなのだけれど、すごく悩んでからこの間兵太夫に選んでもらったミニスカートをはいていくことにした。それからパジャマを選んだ。夏はいつも色気のないTシャツと短パンで寝るから、手ごろなかわいい夏のパジャマがない。
「おかーさん、夏の、パジャマ、買ってくる、かわいいやつ!」
と叫んで財布を引っつかんで表に出たら「なに、どうしたの、」とつられて慌てたような母親の声が追ってきた。
ひとりの旅行は初めてだ。向こうに着いたら、庄ちゃんが待っててくれているわけだけど。鞄に宿題となけなしのお小遣いも詰め込んで、電車に乗った。通勤ラッシュで途中まで押しつぶされそうで大変だった。ようやく田舎のほうにきて電車がすいてくると、携帯に庄ちゃんからのメールが入っていたことに気がついた。
『ここまで気をつけてきてください。ついたら連絡をしてね』
相変わらず、顔文字一つない几帳面な文章だ。それでも伊助は嬉しくて、にへにへしてしまう。向かいに腰掛けた品のいいおばあちゃんが「いいわねえ、お出かけ」と尋ねたので、「旅行です。あの、遠くの友達のところに行くの」と答えたら、眼を細めてもう一度「いいわねえ、きっと大切な人のところへ行くのね」と繰り返された。
京都駅からは電車を乗り継いで洛北まで行った。山のほうで、緑がすごく綺麗でいいところだった。終着駅では、庄ちゃんが待っていた。
「いらっしゃい。荷物持つよ」
伊助はお礼を言って一番軽い荷物を渡した。そうしたら、庄ちゃんはそれを受け取ってから、重い旅行鞄もいっしょに奪ってしまった。
「あ、じゃあ、軽いのは自分で持つ」
「いいよ、両方とも僕が持ってく」
「でも重いから」
「軽いよ、このくらい」
「・・・ありがとう」
女の子扱いされていると思ったら、なんだか胸の辺りがむずむずして、恥ずかしくて俯いてしまった。お礼なんだから、まごまごしたりせずにちゃんと言えたらよかった、と伊助は後悔した。
「じいちゃんが、鮎を食わせるってはりきっちゃってさあ。鮎は好き?」
「うん」
「じゃあよかった」
庄ちゃんの家は駅から、新緑のゆるい坂道をずっと登ったところに会った。黒い品のいい木造の家で、格子窓や瓦屋根がちゃんと残っている昔ながらのお屋敷だった。門をくぐったら大きい蔵があったのでぼうっと見上げていたら、「それは炭蔵、」と教えられた。
「つくった炭が入ってるんだよ」
「すごい広いんだね」
「うん。まだ焼く前の薪も入ってるから」
庄ちゃんがただいまーと声を上げて引き戸をひいた。広い玄関に上品な感じのお母さんが出てきて笑顔で応対してくれた。家の中は夏なのにひんやりして、白檀のいい匂いがしていた。庄ちゃんが育ってきた家だな、と伊助は納得した。すごく、庄ちゃんらしい雰囲気の家だった。凛として涼しい。
奥座敷に案内された。畳敷きの床にふかふかの座布団を引いてくれて、そこに座った。ちょこんと正座をしたら、「足がしびれるからくずしていいよ」といわれた。それで、お尻をぺたんとつけて座ると、庄ちゃんのお母さんの持ってきてくれた冷たいほうじ茶を飲みながら、夏休みの宿題を出して二人で解いた。友達とやる宿題なんてすぐにおしゃべりに取って代わってしまってなかなかはかどらないものだけれど、庄ちゃんとやるとすごく静かな時間が続いた。ふたりして真剣にノートと向き合って、でも伊助は集中力が途切れるとひそかに顔を上げて、向かいの庄ちゃんの顔を観察した。眉がきりっとしていて、ぎゅっと真一文字にひいた唇が、ある。見るからに生真面目で、意志の強そうな、顔だった。ちりん、と風鈴がなって、庄ちゃんが顔を上げた。
「解けた?」
「ううん、難しい。全然駄目」
「途中までは、わかったのにね」
「この先が難しいよね」
夜になったら、宿題をした奥座敷に布団を引いてもらった。おじいさんが蚊帳をつってくれるというので喜んだら、庄ちゃんはクーラーはあるのにって苦笑した。だけどクーラーをつけなくてもちゃんと涼しかったので、蚊帳はそのままにして窓を開けて寝ることにした。蚊取り線香の匂いが懐かしかった。庄ちゃんは、自分の部屋で寝るつもりみたいだった。だけど、ふたりして蚊帳の中に入って話し込んでいるうちに、すっかり夢中になってしまって、庄ちゃんは「二階に上がるの面倒くさくなった」といって、押入れからタオルケットを出してきて、自分の腹にかけて、寝転んでしまった。
「なんにもしないから、ここで寝ていい?」
「もちろんいいよ」
言ってから、伊助はおかしくなって笑ってしまった。
「どうしたの」
「だって、なんにもしないって、わざわざいうんだもん。庄ちゃんが何にもしないことぐらい、ちゃんと知ってるよ」
庄ちゃんはちょっとむっとしたみたいだった。
「だって、僕だって、男だもの」
それから伊助のほうをむいて、手を伸ばした。伊助は逃げなかった。伊助の腕をぎゅっと掴んだ。庄ちゃんの体温はびっくりするくらい熱かった。
「男だから、こういうこと、したいって思ってるんだよ、ほんとは」
伊助はびっくりして、何もいえなかった。庄ちゃんはごめんね、といって起き上がると「やっぱり上で寝るね」と言った。伊助は、固まってしまったみたいに動けなかった。庄ちゃんに隣にいて欲しいのか、上にいって欲しいのか、よくわからなくなってしまった。涙が出そうだと思った。伊助がぱちぱちと瞬きを繰り返しているうちに、庄ちゃんは蚊帳から出ていてしまった。
風鈴がちりんと鳴った。
伊助は、しばらく目を閉じていたけれど、眠れないと思って、携帯を取り出して庄ちゃんに電話をかけた。庄ちゃんはちゃんと出てくれた。布団にもぐりこんで、家族の人を起こさないように声を潜めた。
「あの、さっきはごめんね」
「伊助が悪いんじゃないよ」
「庄ちゃんも、悪くないよ」
「・・・」
「ねえ、眠れないよ」
「僕も眠れない」
「下に来て。いっしょに寝よう」
それから庄ちゃんが来てくれるのを待つわずかの時間の間、伊助は、庄ちゃんも自分も宿題をいいわけにしたりして遠回りしているとおもったらおかしくなった。不器用で、へたくそで、かわいい恋だ。
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